芸術は心のごはん🍚

映画・小説・漫画・アニメ・音楽の感想、紹介文などを書いています。

樋口一葉「たけくらべ」について 〜 私なりの現代語訳 第二章 〜

今日は続けて失礼します。

二章は、要約ではなく、あまり省いていません。

 

たけくらべ 第二章

 

 八月二十日は千束神社の祭りなので、山車屋台に町々が見えを張って、(山車を担ぐ若者達が?)土手を登って廓内にまで入り込みそうな勢い。ここらに住む若者達は威勢が良く、浮世慣れ(?)しているせいで、子供といっても油断がならない。服装も態度も、生意気のありったけ、それを(直接?)見聞きすれば肝も潰れそうである。

 

 長吉は、横町組と自称する乱暴者達の大将で、年も十六、(ある日)鳶職人の頭である父親の代役を務めてから(益々)気位が高くなり、帯は腰の先に巻き、返事は鼻の先でするものと決めていて、可愛げのない様子。

あれが頭の子でなければと、鳶職人の女房達に陰口を言うものもあるほど、やりたい放題わがまま放題に幅を効かせる様になっていた。

 

 長吉には、表町に田中屋の正太郎と言って、歳は長吉よりも三つ下だが、家に金もあり愛嬌もある人気者の、気にくわないライバルがいる。

 

 俺(長吉)は私立の学校に通っているのだが、あちら(正太郎)は公立だからといって、同じ様に歌っている唱歌もあちらの方が本家だという様な顔をしやがるし、去年も一昨年も、あちらには大人の取り巻きもついていて、喧嘩も仕掛けられず、祭りの趣向も自分たちより華やかで、悔しい思いをした。

 

 今年の祭りでも負けになったら、横町組の長吉の面目は丸つぶれだ。腕力では負けないが、田中屋(正太郎)は人当たりの良さと学問が出来ることで人を惹きつけ、(住まいは)俺たち横町組の太郎吉、三五郎などが、表町組に入っているのも悔しい。

祭りは明後日、いよいよこちらが負けそうだと思ったら、やけっぱちでも暴れて正太郎の面に傷の一つもつけてやる。

自分の怪我も覚悟の上だ。加勢するのは車屋の丑(うし)に元結よりの文(ぶん)、玩具屋の弥助などがいればいいだろう。ああ、それよりもあの人とあの人、藤本ならば良い知恵も貸してくれるだろう。

 

 (そう思って)長吉は十八日の日暮れ近く、竹やぶのうるさい蚊を払いながら蓮華寺の庭先から信如の部屋へのそりのそりと、

信さんいるかと、顔を出した。

 

「俺のすることは乱暴だと人が言う。

そうかもしれないが、悔しいことは悔しいんだ。なあ聞いとくれ信さん。

 

去年も、俺んところの末の弟と正太郎組のチビの喧嘩から始まって、だんだん大ごとにしやがって、弟と俺の事をコケにしやがった。俺はその時、千束様へねりこんでいた時だったから、後で聞いて直ぐに仕返しに行こうと思ったけど、父っつあんに小言を食らって、そのまま泣き寝入り。

一昨年はそらね、お前も知っている通り筆屋の店へ表町の若い衆(大人達)が集まって、茶番か何かやったろう。あの時俺が見にいったら、

横町は横町の趣向がありましょう、

なんて、腹の立つ事を言いやがって、正太郎ばかりを客にしたのも忘れやしない。

 

いくら金があるからって、所詮、質屋くずれの高利貸しじゃないか。

あんなやつは、やっつけてしまう方が世間のためだ。

おいらは、今年の夏祭りでは、どうしてもこちらから乱暴をしかけて、雪辱しようと思うよ。だから信さん、友達と思って、お前が嫌だと言うのもわかっているけれど、どうぞ俺の肩を持って、横町組の恥をすすぐのだから、なあ、本家本元の唱歌だなんて威張っている正太郎を取っちめてくれないか?

同じ私立の俺が貶されれば、お前も貶されるのも同然だから、後生だ、どうぞ、助けると思って、俺の味方になってくれないか、俺は心底悔しくって、今度負けたら長吉の立場はないよ。」(長吉)

 

と、本気で悔しがって幅の広い肩を揺すっている。

 

「だけど僕は弱いもの」(信如)

「弱くてもいいよ」(長吉)

「僕が入ると負けるけどいいのかい?」(信如)

 

「負けてもいいのさ、それは仕方がないと諦めるから。

おまえは何もしないでいいから、ただ横町の組だという事で、威張ってさえくれれば(名前を貸してくれれば?)ハクがつくからね。

俺はこんな分からず屋だけど、お前は学問ができるからね。

向こうの奴(正太郎?)が、漢語か何かで冷やかしでも言ったら、こっち(信如)も漢語で仕返しておくれ。

ああ、いい気持ちだ、さっぱりした。お前が承知してくれれば、もう千人力だ。信さんありがとう。」(長吉)

 

などと、珍しく優しい言葉で言ったのだった。

 

一人(長吉)は三尺帯につっかけ草履の仕事師の息子、一人(信如)は坊さま仕立て、寺の息子で、思う事はうらはらで、話はいつも喰い違うのだけれど、(信如にとって)長吉は大和尚夫婦(両親)も贔屓している幼馴染の少年である。

同じ学校なのに、公立の連中に私立だからと貶されるのは信如も不愉快である。

それに長吉は、腕っ節は(自分と違い)あるが、元来愛嬌がないので、心から味方につく者もあまりいないだろう。

確かに、先方(正太郎)は町内の若衆達(大人?)まで味方につけているから、ひがみではなく長吉が負ける事の罪は、正太郎達の方に少なくない。

 

 

 自分を見込んで頼んでくれた事への義理、同じ様に不器用、愛嬌なしで、味方が多いとは言えない長吉に対する同情もあり、嫌とは言いかねた信如。

 

「それではおまえの組になるさ、成るといったら嘘はないが、なるべく喧嘩はせぬ方が勝ちだよ。

いよいよ先方が売りに出たら仕方が無い。何、いざと言えば、田中の正太郎くらい小指の先さ!」

などと、自分の力の無い事を忘れて、信如は机の引出しから京都みやげに貰った小鍛治の小刀を取り出し、それを見た。

 

「よく利れそうだねえ」

と、覗き込む長吉の顔。

 

あぶない、これを振廻してなる事か。(信如)

 

 

 

以上が2章です。

 

この章の、長吉と信如のやり取りは、本当に興味深い文章だと思います。

生まれ育ち、性質も真逆ながら、幼馴染の男子二人のやりとりでわかることは、

 

長吉

(年下のくせに)金持ち坊ちゃんぶり、大人達を味方につけて、横町組の自分たちを乱暴、頭の悪い私立だと言って貶す  

正太郎が気に食わない。 

 

信如

知識人ぶって、公立の生徒として私立の生徒を見下し、

(おそらく本心では)幼馴染として、いつも美登利と仲良く一緒に遊んでいる  

正太郎が気に食わない。

 

理由は違えど、 正太郎が気に食わない

と言うところで、意見が一致したため、信如は長吉に名前を貸すことにしたのではないかと、私は思います。

 

もともと乱暴な長吉とは違い、普段、乱暴が嫌いで大人しい信如が、

正太郎を取っちめよう!

と持ちかけられて、だんだんテンションが上がってしまい、

最後には土産に貰った小刀をうっかり持ち出し、長吉に見せてしまいます。

 

よく利れそうだね と、長吉に言われて、(おそらく、ハッと我に帰り)

 

(しまった)危ない、これを振り回してなる事か。(危ない危ない)と、思ったのではないかと感じました。

 

正太郎だけでなく、信如の方も、正太郎が 恋敵 学問敵 だと言うことを、内心自覚していたのでは無いかと感じました。

 

参考文献はこちらです。

たけくらべ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)

たけくらべ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)

  • 発売日: 2004/12/11
  • メディア: 文庫
 

 

 

 

ありがとうございます。