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樋口一葉「たけくらべ 」  〜 私なりの現代語訳 第十四章 蝶よ花よと育てられ 〜

こんにちは!

今日も引き続き、失礼します。

 

たけくらべ 第十四章 (蝶よ花よと育てられ)

 

 

 この年は、十一月の酉の市が、三日間ある年であった。中日は雨でつぶれたが、前後の二日は天気に恵まれ、大鳥神社の賑わいは凄まじいものだった。

 この祭りにかこつけて、検査場の門から(楼内に)押し入る若者たちの勢いといったら・・天を支える柱が砕けて、大地が隠れるかと思える様な笑い声のどよめき。中之町の通りは、突然に方向が変わったかの様に思われて、角町京町、あちらこちらの跳ね橋から、さあさあ押せ押せと、(遊客を運ぶ)猪牙舟の船頭の様に威勢の良い掛け声に、人の波を分けて進む群れもある。

 河岸の小店の遊女の呼び声から、最も立派な遊女屋の上階まで、弦の音、歌声が様々に沸き起こる様な面白さは、たいていの人が(後々まで)思い出して忘れないものと思う人もあるだろう。

 

 正太はこの日、日がけの集めを休ませてもらい、三五郎が出している、大頭(縁起担ぎの芋料理)の店を見舞ったり、団子屋のノッポの(トンマの)家族の、愛想のない汁粉屋を訪れた。

 

「どうだ、儲けがあるか?」

 

と、尋ねると、

 

「正さん、お前良いところへ来た。俺んところは今、餡子が材料切れになってしまって、もう今からは何を売ったらいいだろう?すぐに(次を)煮れる様にはしておいたのだけれど、途中のお客は、今更断れないよ。どうしたらいいかな?」

 

と、相談を持ちかけられた。

 

「知恵のないヤツだな。大鍋のまわりに、それっくらいの無駄な餡子がついているじゃないか。それへお湯をまわしかけて、砂糖で甘くすれば、十人や二十人前は、浮いてくるだろう?どこでも皆そうするのさ。お前のとこばかりじゃないよ。何、この騒ぎの中で、味の良し悪しを言う人もいないだろう。(そうやって)売りなよ、売りなよ。」

 

と言いながら、先に立って砂糖のつぼを引き寄せると、片目の(ノッポの)母親が驚いた顔をして、

 

「お前さんは本当に、商人に出来ていなさる。恐ろしい知恵者だね。」

 

と、褒めた。

 

「なんだ、こんなことが知恵者のものか。今、横町のひょっとこ顔のところで、アメが足りないって、こうやったのを見てきたので、俺の発明ではない。」

 

と、言い捨てた。そして

 

「お前は知らないか?美登利さんのいるところを。オレは今朝から探しているのだけれど、どこへ行ったのか、筆やへも来ないんだ。」

と言い、

 

「廓内だろうかな?」

 

と、尋ねると、

 

「うむ、美登利さんはな、今さっき、俺の家の前を通って揚屋町のはね橋から入っていったよ。本当に正さん、大変だぜ。今日はね、髪をこういう風に、こんな島田に結ってね・・・」

 

と、ヘンテコな手つきをして、

 

「きれいだねぇ、あの子は…」

 

と、鼻を拭きながら言うと、(正太は)

 

「大巻さんより、もっと美しいや。だけれども、あの子も花魁になるのでは、かわいそうだ…」

 

と、下を向いて正太が答えると、

 

「いいじゃないか、花魁になれば。俺は来年から際物屋になってお金をこしらえるがね。それを持ってあの子を買いに行くつもりだよ。」

 

と、間抜けな事を言った。

 

「しゃらくさい事を言っていらあ!そんな事をすれば、お前はきっと振られるよ。」

「なぜなぜ?」

「なぜでも、振られる理由があるんだよ。」

 

と、顔を少し染めて笑いながら言った。

 

「それじゃあオレも、一回りして来ようかな。また、あとで来るよ。」

 

と、捨て台詞を残して、門を出た。

 

「十六、七の頃までは、蝶よ花よと育てられ・・・」

 

と、怪しげな震え声で、この頃のここら辺の流行歌の一節を言って、

 

「今では勤めが身にしみて・・・」

 

と、口の中で繰り返し、例の雪駄の音が高く浮き立つ、人ごみの中に混ざって、小さな体は、たちまち隠れてしまった。

 

 もまれながら出てきた廓の角で、向こうから番頭新造のお妻と連れ立って話しながら来る人を見ると、それは紛れもなく大黒屋の美登利だった。

 誠にトンマが言っていた通り、初々しい大島田結いに、綿のように絞りばなしを、ふさふさとかけて、べっ甲の櫛を差し込み、房付の花かんざしをひらめかせている。

 いつもよりは極彩色の、まるで京人形を見るように思われて、正太は、あっとも言わずに立ち止まったまま。

 いつものようには抱きつきもせずに、じっと見つめていると、

 

「そこにいるのは正太さんかい?」

 

と言って走り寄ってきた。

 

「お妻どん、お前、買い物があるのなら、もう、ここでお別れにしましょ。私はこの人と一緒に帰ります。さようなら。」

 

といって、頭を下げると、

 

「あれ、美いちゃんの現金な。もうお見送りは入りませぬかえ?そんなら私は、京町で買い物しましょう。」

 

と、ちょこちょこ走って、長屋の細道へ駆け込んでいった。

 そこで正太は、初めて美登利の袖を引いて、

 

「よく似合うね。いつ結ったの?今朝かい?昨日かい?なぜ早く見せてくれなかったの?」

 

と、恨めしそうに甘えると、美登利はしょんぼりして、言いにくそうに

 

「姉さんの部屋で、今朝結ってもらったの。私は嫌でしょうがない

 

と、うつむいて、行き来する人々の目を恥じるのだった。

 

 

以上が、第十四章です。

 

この章のイメージのBGMは、

映画「SAYURI」の曲です。

作曲者のジョン・ウィリアムズさんとヨーヨー・マさんの演奏です。


Memoirs of a Geisha | John Williams and Yo-Yo Ma | Live

 

私は、映画「SAYURI」を見ていません。ストーリーもよく知りません。

少し調べたところ、

 

SAYURI」は 1929年(大恐慌時代、大正時代)頃、京都、祇園の芸者さんのお話の様です。

たけくらべ 」の美登利は、明治吉原の、将来花魁(一般に上位の遊女の称)になる事を要求されている少女です。

 

芸者と花魁は違うと思います。

それでも、着物の日本女性の美しさを表現してくださっている曲だと思いました。 

 

サントラはこちらです。 

 

 ありがとうございます。