こんにちは!
引き続き「たけくらべ」私なりの現代語訳、失礼します。
この章は、特に
「すれ違いラブ・ストーリー」が好き!
「ガラスの仮面」が好き!
と言う女性の皆様と
「俺はどうも好きな女性に素直になれない💦」
と言う男性の皆様に
お薦めしたい章です。
そして、私個人にとっては、
「スレ違いLOVE・ストーリー漫画の金字塔✨」
と言えば、
「ガラスの仮面」🌹 です💦
私は、30数年前に、
「たけくらべ」のストーリーを、こちらの漫画の劇中劇を通して、
初めて知るに至りました。
美内すずえ先生、大変お世話になっております!
大変、尊敬しております✨💐
と言う訳で、私の「ガラスの仮面」愛も込めつつ、第七章を失礼します。
たけくらべ 第七章 (春から初夏 信如と美登利)
(※第七章の始まりは、物語の場面が、一旦その年の春🌸に戻ります。)
龍華寺の信如、大黒屋の美登利。二人とも、学校は育英舎である。
今年の四月の末ごろ、桜が散って青葉のかげに、藤の花見という頃、春の運動会を、水の谷の原で行った。つな引き、まり投げ、縄跳びなどの遊びに、日が暮れるのも忘れて夢中になっていた時の事だった。
信如は、どうしたことか、いつもの落ち着きに似合わず、池のほとりの松の根元につまづいてしまった。赤土の道に手をついたので、羽織りの袂(たもと)にも、泥がついて見苦しくなった所に、(ちょうど)居合わせた美登利が、みかねて自分の紅の絹のハンカチを取り出した。
「これで、お拭きなさいな」
と、お世話をしたところ、それを見ていた友達の中の焼き餅やきが、
「藤本は坊主のくせに、女と話をして、嬉しそうに礼を言ったのは、おかしいじゃないか?」
「きっと美登利さんは、藤本のおかみさんになるのだろう?」
「お寺の女房なら、大黒様(注釈一)と言うんだよ!」
などと、からかわれたのだった。
信如は元々、このような事を、他人の事で聞くのも嫌いで、苦い顔をして横を向く性格だから、自分がそんなことを言われれば、尚更に我慢ができるはずがなかった。
それからというもの信如は「美登利」という名前を聞く度に何だか恐ろしくなる様になった。また誰かがああした、からかい事を言い出すかと思うと、胸の中がハラハラして、何とも言えない嫌な気持ちになるのだ。でも、だからと言って、その度に怒鳴りつける訳にもいかなかった。
なるべくは知らぬふりをして、平静を装い、難しい顔をしてやり過ごそうと思うのだけれど、美登利に直接向かい合って、ものを問われる時の動揺と言ったら。
たいていは
「知りません、わかりません」
の一言で済ませるのだが、本当は苦しい汗が体中に流れて心細い思いになっていた。
そんな事とは知らない美登利は、はじめは
「藤本さん、藤本さん」
と、親しげに言葉をかけていた。
学校帰りに、自分が一足先を歩いていて、道端にめづらしい花などを見つけた時、美登利は後から歩いてくる信如を待っていて、
「ほら、こんな美しい花が咲いているのに、枝が高くて私には折れません。信さんは背が高いから、手が届くでしょ?
お願いだから、私の代わりに折ってくださいな」
と、居合わせた一群の中では、信如が年長だと思って頼んだ事もあった。
さすがの信如も、この時ばかりは、知らないフリをし、袖を振り切って通り過ぎる事も出来なかったのだが、だからと言って、また人から勘ぐられるのは益々いやだった。
そこで手近の枝を引き寄せて、花の善し悪しをよくも確かめず、申し訳ばかりに折って、投げつける様にして、スタスタと行き過ぎたのだった。
そうした信如の態度に美登利は、何とまあ、愛想の無い人だろうと、呆れた事もあった。しかし、そうした事が度重なった末には、おのずから、わざとの意地悪の様に思われて来た。
他の人にはそうでもないのに、私にばかり、冷たいそぶりを見せる。
物を尋ねれば、ろくな返事をしてくれた事がないし、そばへ行けば逃げる。話をすれば怒る。本当に陰気で、息が詰まる。
どうして良いやら、機嫌の取りようもない。
あんな気難し屋は、好きなだけ、ひねくれて怒って、意地悪がしたいのだろうから、友達と思わなければ、口を聞く必要もないわ。
そう感じ、少なからず傷ついた美登利。そんな訳で美登利からも用がなければ、すれ違っても話しかける事もなくなり、偶然会っても、挨拶すら思いもしなくなった。
そんな風に、いつしか二人の間に、目には見えない大きな川が一つ横たわり、船も筏もこの川の行き来はご法度、二人とも、それぞれの岸に沿って、それぞれの道を歩く様になったのだった。
夏祭りは昨日に過ぎて、その次の日から美登利が学校へ通う事が、ふっと途絶えたのは、聞くまでもなく、洗っても消すことのできない額の泥の屈辱が身に染みて悔しかったからだろう。
表町だから、横町だからといっても、同じ学校内の教室に並んで座れば、学友に変わりは無いはずなのに。
おかしな分け隔てをして、いつも意地を張り合っている。私が女なので、力がかなわない弱みに付け込んで、祭りの夜の仕打ちは、なんて卑怯だっただろう。
長吉がわからずやなのは皆が知っていて、前から、この上ない乱暴者だけれど、今度の事は信如の後押しがなければ、あれほどに思いきって、表町に暴れ込まなかっただろう。
人前では物知りらしく、大人しそうに振る舞っているのに、陰でカラクリの糸を引いたのは、藤本の仕業に違いない。
たとえ学年は上にしても、勉強はできるにしても、龍華寺様の若旦那にしても、大黒屋の美登利、紙一枚のお世話にもなりはしないものを。あのように乞食呼ばわりされる筋合いはない。
龍華寺に、どれほど立派な檀家があるのか知らないけれど、私の姉様三年のおなじみ様には、銀行の川様、兜町の米さまもある。議員の短小様などは、見受けして奥様にとおっしゃったのを、心意気が気に入らなかったので、姉様は嫌ってお受けしなかったのだけれど、あの方だって世には名高いお人だと、やり手衆が言っていた。
嘘だと思うなら聞いてみるがいい。大黒屋に姉の大巻がいなかったら、あの楼は闇だと聞いている。だからこそお店の旦那様すらも、父さん、母さん、妹の私の身だって、粗末には扱わない。
いつも大切に床の間に飾っていった瀬戸物の大黒様を、私がいつだったか、座敷の中で羽つきをすると言って騒いだ時、その横に並んでいた花瓶を、そちらに倒して散々に壊してしまった時も、旦那様が隣の座敷でお酒を召し上がりながら、
「美登利はおてんばが過ぎるなぁ」
と、言われただけで、それ以上の事はなかった。
「他の人であったら普通の怒られ方では済まなかっただろう」
と、寮の女性達に後々まで羨ましがられたのも、すべては姉様のご威光であろう。
私は寮住まいで留守番はしたりするけれど、姉は大黒屋の大巻、長吉なんかに負けを取るべきではないし、龍華寺の坊様にいじめられるのは心外だ。
と、それから学校へ通うことも面白くなくなった。わがままの本性をあなどられたのも悔しかったので、美登利はその後、硯を捨て筆を折って墨も捨てて、本も算盤もいらない物にして、仲の良い友達と気まぐれに遊ぶばかりになったのだった。
注釈一
大黒は僧侶の妻を指していう蔭語
参考文献はこちらです。
そんな訳で、今回の心のBGMは、アニメ「ガラスの仮面」ED曲のこちらでした。
Splash Candy さんの「素直になれなくて」です。
補足ですが、「たけくらべ」は、第十六章まであります💦
お付き合い、ありがとうございます。