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樋口一葉『たけくらべ』現代語訳 第十一章 夜の「雨だれ」は知っていたかもしれない、思春期心を解説

こんにちは!

今回は「たけくらべ」第十一章、私なりの現代語訳を失礼します。

 

今日は、少年少女3人の、目には見えない「三角関係」が・・切ない章です。

 

3角関係は、辛そうだなあ…と思っている皆様

3角関係は、辛かったよなあ…と思っている皆様

3角関係は、辛いよなあ…と思っている皆様

 

に、読んで頂けたら…と感じる章です。

 

中村紘子さんのピアノ演奏「雨だれ」のイメージで失礼します。 

雨だれのプレリュード~ショパン名曲集(期間生産限定盤)

  

たけくらべ 十一章 (秋雨の夜 信如、美登利、正太郎)

 

 

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 正太が、くぐり戸を開けて、

 

「ばあ!」

 

と言いながら顔を出すと、その人が二、三軒先の軒下をたどって、ポツポツと歩いていく後ろ姿が見えた。

 

「誰だ、誰だ?おい、お入りよ!」

と、正太が声をかけ、美登利が足下駄を急いで突っかけて、降る雨を構わずに駆け出そうとしたのだが、

 

「ああ、あいつだ!」

と、ひと言いった正太が振り返り、

 

「美登利さん、呼んだって来はしないよ、例のヤツだもの」

と言って、自分の頭を丸めて見せたのだった。

 

「信さんかえ?」と、受けた美登利。

 

「嫌な坊主ったらない。きっと筆か何か買いに来たのだけれど、私達が居るものだから、立ち聞きをして帰ったのでしょうよ!

 本当に意地悪の、根性曲がりの、ひねくれ者の、どんもりの、歯っ欠けの、嫌なヤツめ!

 入ってきていたら、思いっきり、いじめてやったのに!帰ってしまったとは、惜しい事をした。どれ、下駄をお貸し!ちょっと見てやる!」

 

と言って、正太に代わって外に顔を出すと、軒の雨だれが前髪に落ちてきた。

 

「おお、気味が悪い!」

と、美登利は首を縮めながら外を見て、四、五軒先のガス灯の下を、大黒傘を肩で支えながら、少しうつむいている様で、トボトボと歩く信如の後ろ姿を、

何時までも、何時までも、何時までも、

見送っていた。すると

 

「美登利さん、どうしたの?」

と、正太が怪しがって、美登利の背中をつついた。

 

「どうもしない」

と、気の無い返事をして部屋へ上がって、きしやごの数を数えながら美登利は言葉を続けた。

 

「本当に嫌な小僧ったらない。表向きには、いばった喧嘩は出来もしないで、大人しそうな顔ばかりして、根性がいじけているのだもの。憎らしいに決まっているじゃないの。

 ウチの母さんが言っていたっけ。はっきりとモノを言う、ガラガラしている人は、心が良いのだと。

 それだから、グズグズしている信さんなんかは、心が悪いに違いない。ねえ正太さん、そうでしょう?」

と、口を極めて信如の事を悪く言ったので、正太は

 

「それでも龍華寺は、まだ物が分かっているよ。それに比べて長吉ときたら、あれは、いやはや、あきれるよ」

と、生意気に大人の口を真似たので、

 

「およしよ、正太さん。子供のくせに、ませた様でおかしいわ。お前は本当にひょうきん者だね」

と言って、美登利は正太の頬を突いて、

 

「その真面目顔ったら!

と、笑い転げた。すると正太は

 

「おいらだって、もう少し経てば大人になるんだ!蒲田屋の旦那の様に、角袖外套か何かを着てね。

 お祖母さんがしまっておく金時計をもらって、それから指輪もこしらえて、巻きタバコを吸って、履き物は何がいいかな・・おいらは下駄よりも雪駄が好きだから、三枚裏にして、しゅちんの鼻緒と言うのを履くよ。似合うだろうかなあ?」

と聞くと、美登利は、クスクス笑いながら

 

「背の低い人が角袖外套に雪駄姿・・まあ、どんなにかおかしいでしょうね!目薬のビンが歩いているみたいでしょう!

と、からかうと、正太は

 

「バカを言っていらあ!それまでには、オイラだって大きくなるさ。こんなちっぽけのままではないさ!」

と、いばった。なので

 

「それじゃあ、まだいつの事だか知れはしない。あの天井のネズミを見てごらんなさい!」

と、天井に指をさしたので、筆やの女房を始め、部屋にいた人達みんなが笑い転げたのだった。

 

 正太は、一人真面目になって、いつもの様に目玉をぐるぐるとさせながら言った。

 

「美登利さんは冗談にしているんだね?

誰だって大人にならない人はいないのに。おいらの言う事は、なんでそんなにおかしいのさ?

 おいらが大人になったら、綺麗な嫁さんをもらって、連れて歩く様になるんだけどなあ。

 おいらは何でも、綺麗なのが好きだから、せんべい屋のお福の様な痘痕顔、薪やのおデコの様な娘がもしお嫁に来たとしたら、すぐに追い出して、家には入れてやらないや。オイラは痘痕としつかきは大嫌いさ!」

と、力説した。それを聞いた筆やの女房が吹き出して、

 

「それでも正さん、よく私の店へ来て下さいますね。おばさんの痘痕は見えないのかえ?」

と、笑うと、

 

「だって、あなたは年寄りだもの。

おいらの言っているのは、嫁さんの事さ。年寄りは、どうでもいいんだよ」

と、正太が答えたので、

「それは大失敗だね。失礼しました」

と、筆やの女房は、面白そうに正太坊ちゃんのご機嫌をとった。

 

「町内で顔の好いのは、花屋のお六さんに水菓子やの喜いさん。それよりもそれよりも、ずっと好い子は、お前さんの隣に座っておいでだけれど、正太さんは、まあ、誰にしようと決めているのかね?

お六さんの眼つきか、喜いさんの美声か、まぁ、どれなのかい?」

と、問われた正太は顔を赤くした。

 

「なんだ、お六や喜い公の、どこがいいもんか!」

と、釣りランプの下から少し離れて、壁際の方へと後ずさりをすれば、

 

「それでは美登利さんが好いのでしょう?そう決めてござんすの?」

と、図星を指されて、

 

「そんな事、知るもんか!何だそんな事!」

と、くるりと後ろを向いて、壁の腰張りを指で叩きながら「廻れ廻れ水車」を小声で歌い出した。

 一方の美登利は、たくさんのきしやごを集めて

 

「さあ、もう一度初めから」

と、こちらは、顔をも赤らめはしなかった。

 

 

参考文献はこちらです。 

たけくらべ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)

たけくらべ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)

  • 発売日: 2004/12/11
  • メディア: 文庫
 

 

 

 

 

という訳で、心のBGMは、ショパンの「雨だれ」 でした。

こちらは、中村紘子さんの演奏です。ずっと尊敬しております。


中村紘子 ショパン作曲 プレリュード第15番変ニ長調「雨だれ」

 

天気予報だと、私の住んでいる地方は、明日は雨ではない様です。

 

余談ですが、こちらの「たけくらべ」解説記事は、もうしばらく「雨」が続く予報です💦

 

お付き合い、ありがとうございます。