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樋口一葉『たけくらべ』について 四季べつの感想・解釈  「夏」🌻 第二章〜第六章について

こんにちは!

今回は「たけくらべ」夏の場面の章につての感想・解釈を書きます。 

 

「夏」第二章〜第六章

 

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(二章)

二章の長吉と信如のやり取りは、とても興味深い文章です。

生まれ育ち、性質も真逆ながら、幼馴染の男子二人のやりとりでわかることは、

 

長吉

年下のくせに金持ち坊ちゃんぶり、大人達を味方につけて、横町組の自分たちを乱暴、頭の悪い私立だと言って貶す  

正太郎が気に食わない。 

 

信如

知識人ぶり、私立の生徒を見下し、おそらく幼馴染として、いつも美登利と仲良く遊んでいる  

正太郎が気に食わない。

 

理由は違えど 正太郎が気に食わない

と言うところで、意見が一致したため、信如は長吉に名前を貸すことにしたのではないかと、私は思います。

 

もともと乱暴な長吉とは違い、普段、乱暴が嫌いで大人しい信如が、

正太郎を取っちめたいんだ!

と持ちかけられて、だんだんテンションが上がってしまい、

最後には土産に貰った小刀をうっかり持ち出し、長吉に見せてしまいます。

 

よく利れそうだね 

と、長吉に言われておそらく、ハッと我に帰り

 

しまった危ない、これを振り回してなる事か。危ない危ないと、思ったのではないかと感じました。

 

正太郎だけでなく、信如の方も、正太郎が 恋敵 学問敵 だと言うことを、内心自覚していたのでは無いかと感じました。

 

 

(三章)

 この章で語られる美登利の生い立ちや、吉原にやってきて後の、今の暮らしぶり、彼女の無邪気な明るさ、彼女に対する周りの人々(大人達・子供達)の接し方、その理由を考えると、とても切なくなりました。

 これは推測ですが、美登利の漢字は、花魁になってからも使う源氏名なのでは?と感じました。

 長吉達の悪巧みの準備が進む一方で、表町組の正太美登利達は、祭りの遊びをどうするか、趣向を無邪気に相談しています。

お金がかかっても良いよ。私が出すから…などと気前よく言う美登利。

夏祭りの夜には筆やで幻燈をやろう!

と、相談をまとめ、その支度にかかります。

 

(四章)

    お金持ちで可愛らしい正太の、祭りの日の晴れ姿。

 対照的な、三五郎と、その家庭事情の描写。

 正太と三五郎は、何かにつけて対照的なイメージです。

 筆やで美登利が来るのを待っている時の人々のやりとり。

 正太郎は、知恵と愛嬌はあるのですが、まだ幼く小柄で、腕力が着くのは、これから……という少年です。

 おめかしで遅れている美登利を、彼は三五郎に迎えに行かせます。しかし夕飯を食べるようにと祖母が迎えにきたため、自宅に帰ってしまいます。人気者の正太が帰ると、途端にその場が寂しくなりました。

 その後、正太郎の祖母の風貌や人柄についての描写、彼女やその商売、遊郭事情などについての、女性達の井戸端会議の様子などが、シニカルに描かれていると思いました。

 四章は個人的に、理解するのが難しい章でした。

 

(五章)

 おめかしの支度がようやく整い、誇らしげに、迎えの三五郎と共に大黒寮を出た美登利。夕食のために家に戻った正太とすれ違いに、筆やにやってきます。

   正太の不在を残念がる美登利。彼女のご機嫌とりに慌てる仲間たち。しかし、その時の正太の不在を予測していなかったのは、美登利だけではありませんでした。 

 予定通りのつもりで、一群で筆やに暴れ込んできた、長吉率いる横町組の少年たち。

 

 しかし長吉は、大暴れはしたものの、正太をとっちめる事はできませんでした。

 三五郎は、諸々の事情で、二股やろうと罵られ、正太郎を引き出すための口実の様に引き出され、大勢にただ一人、暴力を振るわれました。

 美登利は、長吉の乱暴ぶり、祭りの夜に自分たちの遊び場を荒らされた事に腹が立ったのと、三五郎かばうため、少女の身で長吉に立ち向かい、あろうことか、額に草履をぶつけられたのでした。

 退散する前に、長吉が捨て台詞に

こっちには信如もついているぞ!

と言ったため、信如は間接的に、またしても美登利を傷つけ、怒らせる事になります。

 因みに、この章には二人の主要人物(正太信如)は登場しません。

 

 私は、乱闘前に夕飯という理由で、正太の祖母が迎えに来た事は、祖母が乱闘の予兆を知り、孫の正太を助けるためだったのではないかと感じています。

 正太郎の祖母は、自分自身も高齢で女性という、弱い立場です。お祖母さんは、たった一人の家族で、大事な跡取りの正太の心と体を守るために、それまでも同じ様なやり方をしてきたのではないかと思いました。

 

(六章)

  祭りの翌日、正太は、自分が不在だったせいで美登利たちが酷い目にあった事を知り、美登利に謝ります。

 夏の暑い日、正太の家での、幼馴染二人のやり取りも印象的です。

 二人の可愛らしさが際立つ場面なのですが、この場面の読みどころは、正太郎のかわゆさだと思います。作者の樋口一葉さんもかわゆさと、書いています。

 

 六章の正太郎の台詞を読んでいると、正太郎が信如を、横町組としてだけでなく、恋敵だと理解している事が読み取れます。

 一方、美登利の冷静な言葉選びに、幼馴染の正太への気持ちと、信如への気持ちが全く違うものだと言う事も、感じられる場面です。

一緒に写真を撮ろうよ

と誘う正太に、美登利は

変な顔に写ると、お前に嫌われるから

という返事で、やんわり断るのです。もしかすると、その写真を信如に見られたくなかったのかも知れません。

 

 夏の場面でもわかるのは、いかに美登利が、まだ「吉原の実態」「自分の身の行く末」を、まともに教わってもいなければ、理解もしていないという事です。

 

 

以上、第二章から第六章までの、感想・解釈でした。

 

お付き合いありがとうございます。