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樋口一葉『たけくらべ』について 第十六章の感想・解釈 「冬」 ある霜の朝

 皆様、いかがお過ごしでしょうか?

今日は勤労感謝の日ですね。

 

私は数ヶ月前に樋口一葉さんの伝記を読みました。

それによると、今日は一葉さんの命日なのです。

 

命日という事もあり、今日は「たけくらべ」最終章の感想・解釈をさせて頂きます。

 

 

第十六章

 

 大黒寮を飛び出した正太が筆やの店へ走り込むと、祭の店じまいを済ませた三五郎がいた。動揺している正太を見て、喧嘩か?と息巻く三五郎。

ケンカではない!

と叫んだものの、本当の心配事は言えません。

すると三五郎が、

もう喧嘩はないかもね。信如がもうすぐ遠くの坊さん学校へいくらしいから

と話します。

 しかし正太郎は、その事よりも、先ほどの美登利のそぶりが頭の中で繰り返されて、何時もの歌の癖も出ないほど。

 今日の酉の市は、メチャメチャで、何もかもが訳の分からない事だらけです。

 

 美登利は、酉の市の最終日を境に元気を失います。

 外出は廓の姉のところへは通うくらいで、全く友達と遊ばなくなります。あれ程仲良しだった正太郎とさえも。 

 そのため、火が消えた様に寂しくなった表町。

 正太の可愛い歌声を聞く事も少なくなり、夜に集金に廻る時の弓張りちょうちんを見かけるだけ。 

 

  信如が、修業の場所に旅立つ噂さえも、美登利は、ずっと知りませんでした。

 

 ある霜の朝水仙作り花を、格子門の外から差し入れていった者がありました。

 誰がした事なのか分かりませんでしたが、美登利は訳もなく愛しい思いがして、ちがい棚の一輪ざしに入れて、その姿を愛でていたのですが……

 

 その後、聞くともなしに伝え聞いた話では、その次の日は、信如がどこかの学校に入り、袖の色を変えた、ちょうどその当日だったという事です。

 

 

 

 

 酉の市の頃には、信如は、それまでの予定より早く、遠くの坊さん学校に出発する事が決まった様です。

 早まった理由が、親の希望だったのか、本人の希望だったのかは、説明されていません。

 

 私は想像してみました。ちりめんの事でも美登利を傷つけてしまった信如は、それまで以上に、美登利へ顔向けが出来ない気持ちになった様に思います。その後は、田町への近道も通らなくなったのではないかと。

 

 そうした理由で彼自身、学校にも、住み慣れた土地にも、急速に未練が薄れ、疑問だらけの実家からも離れたい気持ちが強くなったのかも知れません。

 しかし、出発までの何日か、または何週間かの間に、信如も、元気をなくした美登利の噂を耳にしたのかも知れません。信如は、自分自身が傷つけた事も、その原因の一つかも知れないと、思ったのかも知れません。

 

 美登利が自分の立場への自信と希望を失った理由は「遊女」の実状を知ったからでしょう。それが今まで想像していた仕事と全く違っていたのではないかと。

 だから、長吉や信如が自分を貶していた理由が漸くわかり、誇りが恥ずかしさと不安にかわってしまったのではないかと推測します。

 

 

今回は、ここまでに致します。

お付き合い、ありがとうございます。