こんにちは。
今回も『大つごもり』の続きです。
物語も、いよいよ山場に突入いたします。
「大つごもり」当日。
大金持ちの山村家に、嵐を呼ぶ(?)息子、石之助が帰ってまいりました!
結果、奥様のイライラがまたも募り…
大晦日の正午が近づき、今しかないと焦ってお金の前借りを願い出たお峯は、奥様の無情な言葉に大ショック。
しかし、奥様には奥様の、口には出来ない悔しい思いがある様です。
樋口一葉『大つごもり』私なりの現代語訳 その5
大晦日の当日がやってきた。
「ほーら、お兄様のお帰りだぞ!」
と言って石之助が玄関から入れば、妹たちは皆怖がって、腫れ物の様に触る者がない。しかし結局、誰もが何でも言うなりになるので、石之助は一段とワガママのし放題。
この日もいきなり帰ってきたかと思えば、炬燵に両足を突っ込んだまま
「酔い醒めの水を持って来い!」
と、乱暴な言葉。それはいつもの様に、母親の心臓に止めを刺さんばかりだったが…
(本当に憎らしい!)
と思っても、流石に義理の母の立場は辛いものなのだろうか、母親は陰の毒舌を我慢し、(惣領息子が)風邪を引かぬように、かい巻きやら何やら、枕まであてがってやるのだった。
すると石之助は、今度は、正月の支度のお節料理をつまみ食い。
「他人に食べさせるんじゃあもったいない!」
と、聞こえよがしの経済観念を、枕元から見せつけるのだった。
正午も近づく中、お峯は伯父への約束が気になって落ち着かない。奥様のご機嫌を見計らう余裕もなかったので、少し仕事の手が空いた時、頭にかぶっていた手ぬぐいをとって、手の中で硬く握り締めがら、思い切って言った。
「あの…先日より、お願いしておりました事ですが…こんなにお忙しい時に申し訳ないのですが、今日の昼過ぎにと、お約束して頂きましたお金の件…お助け頂けましたら、伯父の幸せは私の喜び…いついつまでも、御恩にきますので…」
と、手をもみ合わせて頼み込んだ。
数日前、初めに願い出た時には、曖昧ながらも結局は
「いいよ」
と言ってもらえていた。その言葉を頼みにして、
(また、奥様の機嫌が悪い時にうるさく言ったりしたら、かえって藪蛇になるかもしれないし…)
と、今日までずっと、催促するのを我慢していたのだが…流石に今は、約束の大晦日、その日の昼前である。
(奥様は忘れてしまわれたのかしら…)
何ともお話もなく、お峯は不安で仕方がない。
「私にとっては身に迫った大事な事なのですが…」
と、言いにくい事を思い切って、こう願い出たのだった。すると奥様は、驚いたような、呆れ顔をして言った。
「それはまあ、何のことやら…なるほど、お前さんの伯父さんの病気、それから借金の話も聞きましたが、今の今、私の家から立て替えようとは言わなかった筈だよ。それはお前の聞き違いだよ。私は全く、覚えがないねえ」
と、いくらこれがこの奥様の十八番(得意技)とは言っても…
何とまあ、薄情な事だろう。
※
(花や紅葉の布を美しく仕立てた娘たちの晴れ着姿…
その下に着る下着の小袖、襟元も着物の裾もキチンとして…
母親の私も眺めて、人様にもお披露目して、喜ぶつもりだったのに!
邪魔者の兄が見ている目が、本当にうるさいわ!
ああ、もう…早く出て行きなさいよ!早くどこかに行ってしまえ!)
と思う内心の思いは、口にこそ出せないが、石之助の義母は持ち前の癇癪が今にも心の中で爆発しそうである。
もしも知徳の優れた坊さまが、今の奥様をご覧になったとしたならば、体が炎と煙に包まれているのが見える事だろう。
お峯が奥様に話しかけたのが、そんな風に、心の中が乱れ狂っているちょうどその時だったものだから…その反動なのか、奥様も言うは言うは…
「お金も薬も、身に過ぎれば毒になるんだよ!
今聞いた事を、私に覚えがあったとしてもだね!
それが一体、何だって言うんだい?
きっと、お前の聞き違いだよ!」
と、ぴしゃりと言い放って…
後はタバコの煙を輪にふいて
「私は知らないよ!」
と、済ませたのだった。
(ええい! このお宅にとっては大金でもあるまいし! 私が必要なお金は二円よ!
しかも、ご自分の口で一度は承知しておきながら、十日と経っていないのに、急に忘れっぽくなる事もないでしょうに!
あぁ…あそこ、あのかけ硯(金庫) の引き出しにも、
『 これは貯金に回す分…』
と言っていた、一束のお金が入っているはず…
十枚二十枚とか、全部と言っている訳じゃない。
二枚だけで、伯父が喜び伯母が笑い、三之助には、少しの雑煮を食べさせてあげられるのに…
どうしても欲しいのは、あのお金。
憎らしいのは奥様だ!)
と思っても、お峯は悔しさのショックで、ものも言えない。常日頃からおとなしい性格なので、理詰めで反論する術も知らないのだ。
すごすごと台所に立った時、正午の号砲の音が鳴り響いた。ちょうどその様な時だったので、その音は一段と、お峯の胸に響いたのだった。
今回はここまでにいたします。
参考文献はこちらです。
本当に、灰かぶり○ っぽくなってきましたが…
明治、日本の物語では、夜中の十二時の鐘ではなく、正午の号砲の音でした💦
と言うわけで、こちらの歌が今回は頭をよぎりました。
ディズニー・シンデレラの The Work Song です💦
さて、ネズミのお友達がいない、お峯ちゃんの大ピンチ!
一体、彼女はこの後どうなるのでしょうか。
お付き合い、ありがとうございます。