こんにちは。
『大つごもり』の続きを書きます。
前回、切羽詰まったお峯は、遂にやってはいけない事を…
お峯は、この後どうなるのでしょうか…
大晦日の晩、上機嫌で、それぞれの外出先から帰宅した山村家のご夫婦。
そこに待ち構えていたのは、不良息子の石之助でした。
さて、どうなるのでしょうか?
樋口一葉『大つごもり』私なりの現代語訳 その7
大晦日の日も暮れ近くなり、旦那様が沖釣りから、えびす顔をしてお帰りになると、続いて奥様も娘の安産の喜びに溢れてご帰宅なさった。
送りの人力車の車夫にまで愛想がいい。
「今夜の家仕舞いをしたら、また見舞いに行きます。明日は早くに妹のうちの誰かを、一人には必ず手伝いをさせますと、お伝え下さいまし。
さてさて、ご苦労様でした」
と、夜道のろうそく代などを渡して、車を帰した。
「やれやれ、忙しい事!誰か暇な人の身体を半分借りたいものだ!
お峯、小松菜は茹でておいたかい?
数の子は洗ったか!
大旦那はお帰りになったか?
若旦那は…?」
と、これは小声で聞かれたのだが、まだ居ると聞いて、奥様は額に皺を寄せた。
石之助は、珍しくその日はいつもより大人しい口調でこう言った。
「新年は明日より三ヶ日ですし、本来は自分の家で祝う筈のものでしょうが、私はご存知の通りの気まぐれ者。
堅苦しい袴づれも挨拶も面倒だし、集まる親類の顔に美しい人もいないから、見たいと思う気持ちもないですよ。
裏屋の友達のところに、今夜は約束もありますのでね。
今夜はひとまずお暇して、また、新年からも末長く(お金の)頂戴の数々をお願いしますよ。
ちょうどおめでたい時期だ!お歳暮には如何程(いかほど)下さりますかい?」
と、今朝より寝ながら父親の帰りを待っていた訳は…これだったのである。
「子供は三界の首かせ(三界は、過去・現在・未来の事。親にとって子供は、逃れる事の出来ない苦労の種であると言う例え)とは、よく言うが、本当に、どら息子を子に持つ親ほど不幸者はいない。
切る事の出来ない縁の血の繋がりだからと言って、思い切りの悪戯をやり切って、崩壊した暁に、落ち込むのは絶望の淵だろう。親が子供の悪事を
『自分の知った事ではない!』
と言っても、世間様は許さないだろうから、立派な我が家名が耐え難く、自分の顔が恥ずかしい!こうなったら、大事なこの蔵を開けるしかあるまい!」
と言って、父親が蔵を開けるのを見て、石之助は
「今宵が期限の借金もございます。人の保証人になって判を押した分もありますし、花札賭博の場所に強風もひとふき。
ゴロツキ仲間に借りを返さねば、この収まりがつくのは難しいでしょう…
私は仕方ないですが、父上のお名前に申し訳がないですよ!」
と、つまりはお金の催促と解る様に言ったのだった。
母親は、あらかた、そんな事だろうと、今朝からの不安が的中して、
(一体、いくらとねだるのだろうか?甘い旦那様のやり方が、はがゆい!)
と思っても…
自分も、口では勝てない、石之助の弁舌に、お峯を泣かせた今朝とは違って、
(夫の顔色はどうだろう?)
とばかりに、チラチラと夫を見やる目線の恐ろしい事。
父親は静かに金庫蔵へ入っていき、やがて五十円束を一つ持って戻って来た。
「これは貴様にやるのではない!
まだ結婚が決まらぬ妹娘達が不憫だし、姉娘の夫の顔にも迷惑がかかる。
この山村家は、代々真面目一方。正直律儀を指針にして、悪い噂を立てられた事もない筈だったものを…
悪魔の生まれ変わりの様な貴様という悪が出て、余りの無分別に人様の懐を狙う様にでもなったら、恥は私一代に止まらない。重いと言っても財産は(家名の)二の次だ。
親兄弟に恥をかかせるな!
貴様に言っても甲斐はないだろうが、普通であれば、山村の若旦那といえば、悪戯に世間様の悪い評判も受けず、私の代わりの財産で、当主の苦労をも助けられた筈だったものを…
六十に近い親に苦労をかけるとは、罰当たりではないか!
子供の頃には、本を少しでものぞいていた奴が、
何故これが分からないのか!
さあ行け!
帰れ!
何処へでも帰れ!
この家に恥をかかせるな!」
と言って、父親は家の中深くに入って行き…
金は石之助の懐の中に入ったのだった。
今回はここまでにいたします。
参考文献はこちらです。
今回の私の心のBGMは、こちらの二曲でした💦
ペット・ショップ・ボーイズ の 「Opportunities 」です。
80年代後半に大ヒットした曲です。
大つごもりも晩になりました💦
が、
山村家の ジェットコースター的 大つごもりは…
まだまだ波乱が…
もう一曲は、こちらでした。
映画『スター・ウォーズ』シリーズの「帝国のマーチ(ダースベイダーのマーチ)」です。
父親 vs 息子
と言う意味でなんとなく…
あ、でも、こちらの映画では、闇に染まったのは、父親の方でしたでしょうか?💦
今回の後半内容は、
「ジェダイの復讐」
ではなく、
「親世代の逆襲」
と言う感じかな?と💦でも、最後には大金を渡していましたね💦
辛いんだか、甘いんだか、分からないお父様だなと💦
ダースベイダー と ルーク・スカイウオーカー の 有名なセリフは
アイム ユア ファーザー!
ノー!
だったと思うのですが、山村家の 父親 と 息子の 言い分は…
後とり息子として認めたくない父と、
自分の息子としての権利を譲らない息子で、
何だか真逆な感じかなと💦
改めて、今回感じたのは、石之助に必要なのは、オビ=ワン・ケノービやマスター・ヨーダの様な
良き師匠
なのではないかな…?
と言う事です。
もし、マスター・ヨーダ だったら、こんなふうに助言してくれるのでしょうか?
「石之助、(お金ではなくて)フォースを使うのじゃ!」
…なんて…妄想してしまいました💦
それから、今回の文章を書いていて、樋口一葉さんの文章、やっぱりすごい!!
と、私が特に感じたのは、最後の一文でした。
シニカルなウィットのパンチが効いた一文だと感じました。
おそらくですが、次回が最終回になりそうです。
さて、この後どうなるのでしょうか。
お付き合い、ありがとうございます。