芸術は心のごはん🍚

家族泣かせ・多趣味女のブログです。浅田真央ちゃん・バレエ・映画・読書(小説・漫画)・アニメ(主に昔の)大好き。主に書評・映画・音楽等の芸術の感想、紹介文を書いています。時々、子育て記録・懐メロ替え歌、素人イラストもアップします。

漫画「ガラスの仮面」の劇中劇「たけくらべ」について  美内すずえ先生の漫画の素晴らしさ

こんにちは。

樋口一葉たけくらべ」の感想・解釈のまとめを書く前に、こちらの作品について、

少し書かせて頂きます。

 

私は、この漫画を読んで、初めて「たけくらべ」のお話を知りました。

ちょうど美登利と同じ14歳の頃でした。

 

ガラスの仮面 (第2巻) (白泉社文庫)

ガラスの仮面 (第2巻) (白泉社文庫)

 

 

 漫画のストーリーとして、主人公のマヤと、ライバルの亜弓さんが、それぞれの劇団で「たけくらべ」の美登利を演じ、コンクールで競う事になります。

 

亜弓さんが美登利の、劇団「オンディーヌ」版「たけくらべ

マヤが美登利の、劇団「月影」版「たけくらべ

 

 まず、原作のあらすじ紹介があり、その後、二つの劇団、役者たちの練習風景、

コンクール本番での、それぞれの劇団の劇中劇のシーンなどなど、

 漫画の中でも「たけくらべ」の内容は、原作に忠実な内容で、とても丁寧に表現されています。

 

 漫画では、舞台劇の演出として、素晴らしいストーリー展開なのですが、原作と違う点が一点だけあると、私個人は感じました。

 それは

 

ラスト・シーンで「水仙」の作り花を作り、贈ったのが

 

漫画では 「美登利の希望・願い」に答える形での行動

原作では 「信如自身の意志」からの行動

 

という点だと、私は感じました。

 

 

私は2年ほど前に、「たけくらべ」原作を読み始め、その違いに、初めて気づきました。

それをきっかけに読み込むうちに、すっかり、この物語の虜になってしまいました。

 

 

余談ですが、

私は「ガラスの仮面」の影響で、原作を読んだ本が他にも、いくつかあります。

 

エミリー・ブロンテの「嵐が丘」や、

シェークスピアの「ロミオとジュリエット」「真夏の夜の夢」などです。

 

美内すずえ先生、

ガラスの仮面」は幾つになっても、私の人生のバイブルです✨

 

 

お付き合い、ありがとうございます。

 

樋口一葉『たけくらべ』について 第十六章の感想・解釈 「冬」 ある霜の朝

 皆様、いかがお過ごしでしょうか?

今日は勤労感謝の日ですね。

 

私は数ヶ月前に樋口一葉さんの伝記を読みました。

それによると、今日は一葉さんの命日なのです。

 

命日という事もあり、今日は「たけくらべ」最終章の感想・解釈をさせて頂きます。

 

 

第十六章

 

 大黒寮を飛び出した正太が筆やの店へ走り込むと、祭の店じまいを済ませた三五郎がいた。動揺している正太を見て、喧嘩か?と息巻く三五郎。

ケンカではない!

と叫んだものの、本当の心配事は言えません。

すると三五郎が、

もう喧嘩はないかもね。信如がもうすぐ遠くの坊さん学校へいくらしいから

と話します。

 しかし正太郎は、その事よりも、先ほどの美登利のそぶりが頭の中で繰り返されて、何時もの歌の癖も出ないほど。

 今日の酉の市は、メチャメチャで、何もかもが訳の分からない事だらけです。

 

 美登利は、酉の市の最終日を境に元気を失います。

 外出は廓の姉のところへは通うくらいで、全く友達と遊ばなくなります。あれ程仲良しだった正太郎とさえも。 

 そのため、火が消えた様に寂しくなった表町。

 正太の可愛い歌声を聞く事も少なくなり、夜に集金に廻る時の弓張りちょうちんを見かけるだけ。 

 

  信如が、修業の場所に旅立つ噂さえも、美登利は、ずっと知りませんでした。

 

 ある霜の朝水仙作り花を、格子門の外から差し入れていった者がありました。

 誰がした事なのか分かりませんでしたが、美登利は訳もなく愛しい思いがして、ちがい棚の一輪ざしに入れて、その姿を愛でていたのですが……

 

 その後、聞くともなしに伝え聞いた話では、その次の日は、信如がどこかの学校に入り、袖の色を変えた、ちょうどその当日だったという事です。

 

 

 

 

 酉の市の頃には、信如は、それまでの予定より早く、遠くの坊さん学校に出発する事が決まった様です。

 早まった理由が、親の希望だったのか、本人の希望だったのかは、説明されていません。

 

 私は想像してみました。ちりめんの事でも美登利を傷つけてしまった信如は、それまで以上に、美登利へ顔向けが出来ない気持ちになった様に思います。その後は、田町への近道も通らなくなったのではないかと。

 

 そうした理由で彼自身、学校にも、住み慣れた土地にも、急速に未練が薄れ、疑問だらけの実家からも離れたい気持ちが強くなったのかも知れません。

 しかし、出発までの何日か、または何週間かの間に、信如も、元気をなくした美登利の噂を耳にしたのかも知れません。信如は、自分自身が傷つけた事も、その原因の一つかも知れないと、思ったのかも知れません。

 

 美登利が自分の立場への自信と希望を失った理由は「遊女」の実状を知ったからでしょう。それが今まで想像していた仕事と全く違っていたのではないかと。

 だから、長吉や信如が自分を貶していた理由が漸くわかり、誇りが恥ずかしさと不安にかわってしまったのではないかと推測します。

 

 

今回は、ここまでに致します。

お付き合い、ありがとうございます。

 

樋口一葉『たけくらべ』について 第十四章・第十五章の感想・解釈 「冬の訪れ」 酉の市

 こんばんは。

連休の二日目ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

私は今日一日、冬支度でバタバタしていました。

当ブログでの「たけくらべ」についても「晩秋」から「冬」へと進んできました。

十一月下旬ごろ、ちょうど今時分のシーンだと思います。

 

 

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第十四章

 

 この年は、酉の市が三日間で、神社は大にぎわい。吉原の人々も、ここが稼ぎ時と活気付いてる様子。

  酉の市の最終日は、家業の休みをもらった正太郎。市の見物をしながら、美登利を探していました。

 団子屋の汁粉屋をのぞくと、材料の飴が品切れになりそうで困り果てていました。

 その場をしのぐ知恵を教えてやると、おまえは商人向きだと褒められ、複雑な心境の正太郎。

 団子屋のトンマに美登利を見たかと尋ねると、

さっき俺の家の前を通った時、髪を島田に結って、とても綺麗だったという。

花魁になるのでは可哀想だという正太郎。

そうなったら、俺はお金を貯めて買いに行くという団子屋のトンマ。

 それを呆れてたしなめる正太郎。

 別れの挨拶をし、人ごみを歩き出した正太郎は、廓の向こうから番頭新造と一緒にやってくる美登利を見つけます。

 

 大島田に結った髪に鼈甲をさし、花簪をひらめかせ、色鮮やかな装いで、京人形の様。

 あっと驚き見ていると、気が付いた美登利が走り寄ります。連れの女性に別れを告げ、逃げる様に正太郎と歩き出す美登利。

 正太郎が美登利の袖を引いて装いを褒め、いつ結ったのと甘えて尋ねても、美登利は元気がありません。

姉さんの部屋で今朝結って貰ったの。私は厭でしょうが無い。

と呟き、人々の視線を恥じるのでした。

 

 

第十五章

 

 その日の美登利には人に言えない事情があり、人々の褒め言葉は、あざけりの言葉に聞こえるだけ。

 島田の髷の美しさに振り返る人たちがあっても、それはただ自分を蔑む目つきに思えてしまう。たまらず、逃げるように自宅へ向かいます。

 

  酉の市へは、一緒に行こうと言っていたのに、美登利が自宅へと急ぐので、怪訝に思う正太郎。

 訳を聞いても、美登利は顔だけ真っ赤にして

何でもない

と言うだけです。

 

 正太郎も後を追って寮に入っていくと、美登利の母親が彼に声をかけます。しかし正太が具合を尋ねても、母親は心配している様には見えません。

  美登利は、いつの間にか小座敷に布団とかい巻きを持ち出して、布団にうつ伏しているばかり。

 正太郎は遠慮がちに具合を訪ねますが、美登利は返事もせず、顔を押さえつけた袖に、忍び泣きの涙。

 

帰っておくれ、正太さん。お願いだから帰っておくれ!

お前がいると、私は死んでしまう。

話しかけられると頭痛がする、口を利くと目が回る。

誰も、誰も、私のところへ来ては嫌だから、お前もどうぞ、帰って!

 

 と、愛想尽かしの言葉。正太には、何故なのか訳も分かりません。売り言葉に買い言葉、キツい言葉でやり返してしまいます。

 

それならば帰るよ。お邪魔さまでございました!

 

 と言い捨て、正太は庭先から駆け出したのでした。

 

 

 

 酉の市を境に、おそらく美登利は、自分の本当の運命を知り、嘘のように、それまでの快活さ、自信を失ったのだと思います。

 何らかの事情で、今まで自信を持てていた事、信じられていた事柄が、一度に失われたのではないかと思います。

 

 この場面では、改めて昔の人々の価値観について、吉原という場所の価値観について、考えさせられました。

 

お付き合い、ありがとうございます。

 

樋口一葉『たけくらべ』について 第十二章・第十三章の感想・解釈 「晩秋」 時雨の朝

こんばんは!

最近、晩秋とは思えない気候ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

今回も「たけくらべ」感想・解釈の続きです。

 

第十二章 「時雨の朝(前編)」

 

 信如が田町へ行く時、近道を口実に通る道があります。

 時雨の朝、母に遣いを頼まれた信如。

 はいはいと素直に、雨傘をさして出かけたのでした。

 信如がその細道を歩いていると、運悪く大黒屋の前で突風が。思わず踏みこらえると、下駄の鼻緒が抜けてしまいました。

 雨の中で直そうと悪戦苦闘するも上手くいかず、気ばかりが焦る。半紙を取り出し、裂いてこよりにするも、意地悪な嵐が立てかけていた傘を転したため、小包も着物の袂まで泥だらけです。

 

 その様に困っている人が、格子門前にいる事に気づいた美登利。針箱の引き出しから、ちりめんの切れ端をつかみ出し、庭石づたいに駆けつけました。

 けれど信如だとわかった途端、美登利の顔は赤く成り、動揺して立ち尽くすばかり。

 いつもの美登利なら、困っている信如に向かって、憎まれ口を並べ立てたところでしょう。しかしそれができませんでした。

 

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第十三章 「時雨の朝(後編)」

 

 ここが大黒屋の前だと慌てた信如。鼻緒が切れ、困って紙縒をよっているのは、辛く耐えられない心地でした。その上、飛石の足音が聞こえて更に動揺します。

 

  門の内側から、それを見ていた美登利は、信如の不器用さを歯がゆく思うものの、立ち尽くしているだけ。そうとは知らない母親が、遥か屋内から呼ぶ声がします。

 

火のし(炭火を使ったこて)の火がおこりましたぞえ……

 

 大きな声で返事をしたので、信如に聞こえたのが恥ずかしい。迷いながらも思い切って、格子の間からちりめんを投げたのに、信如はそれにも気づかぬふり。

 またかという思いで、深く傷ついた美登利。そこへ、また母親の声がかかったので、未練を残しながらも、飛び石を鳴らして去っていきます。

 

 信如が淋しく振り返ると、紅入り友仙が自分の足の近くに落ちていました。しかし手に取る勇気もなく、空しく眺めるだけ。

 その時、声をかけられて振り返ると、遊郭からの朝帰りらしい長吉がいました。事情を知った長吉は、気前よく自分の新しい履物と信如の下駄を交換してくれます。その後、それぞれの方向へ歩き出す少年二人。

 

 大黒寮の門前には、紅入りの友仙 だけが、雨に濡れたまま残ったのでした。

 

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  第十二、十三章で私が気になった事は、前回の筆屋の場面と同じの中だという点です。二人の悲しい気持ちが、雨でも表現されている様に感じます。

 ですが、前回は秋雨の夜、今回は時雨(しぐれ)の という違いがあります。

 辞書で調べてみました。

 

秋雨】秋の雨。特に9月から10月にかけての長雨にいう。【時雨】通り雨の意。秋の末から冬の初め頃に、降ったり止んだりする雨。

 

 なので、この場面の季節が、おそらく晩秋だという事がわかります。

 

 次の第十四章のはじめに、

 この年は酉の市が三日ある年で、二日目は雨でつぶれたが、前後の二日は天気で神社が賑わった…といった説明がされています。

 

 第十四・十五章は、酉の市の三日目、恐らく十一月下旬の出来事だと思われます。

 そうしますと、時雨の朝の出来事は、

十一月の中旬で、雨で潰れた二日目の酉の市の前あたりだったかもしれないと思います。

 そうだとすれば、雨の早朝にも関わらず、信如の母が遣いを頼んだ理由は

酉の市の二日目に、商売上手な娘に新しい着物を着させたかった 

という事もあったのかもしれないと思いました。

 

 田町への遣いで、昨日も今日も時雨ている中を、近道だからと大黒寮の前を通った信如。

 夏祭りの乱闘以降、学校ですら美登利の姿を見る事が出来なくなった信如にとって、田町へのお遣いは、美登利のいる大黒寮の前を通る、良い口実になっていたのかもしれません。

 

 しかし、その日は、大黒寮前で鼻緒が切れてしまい、時雨の中で着物の袂も泥だらけ。そこに美登利と思われる人がやってくる気配が。

 かっこう悪い姿を美登利に見られてしまいました。春の運動会に続いて二度目です。恥ずかしくてたまらない。

 

 だから、美登利が庭にいた間には、信如は美登利の方を振り向けなかったのではないかと感じました。

 私は、信如が友仙(友禅ちりめん)の存在に気が付いたのは、美登利が去ってしまった後ではないかと思いました。

 

 そのため、長吉が現れたからだけではなく、今更それを拾う事を躊躇ったのではないかと。

 それに、美しい布切れでも、男の子が鼻緒に使うには、派手すぎて恥ずかしかったのかもしれません。

 

 無邪気で親切心の強い美登利としては、鼻緒を切った人が誰であれ、美しい布の方が喜ばれるだろうと思ったのかもしれませんが。

 

 そして、この場面の特徴は、情景の描写と、二人の心の動き、動揺、行動、仕草、美登利が本来なら言いそうなセリフしか描かれておらず、美登利が格子門のところへ来てからは、二人の間に生の言葉のやり取りがないという事です。

 

 もう一つ、個人的に気になったのは「友仙」と打ち込もうとした時「友禅」と出て、友仙 という漢字では、出て来なかった事です。なので私は、仙という字を水仙と打ち直して、文を入力しました。

 そうした文字の使い方も、最終章への伏線になっているのではないかと感じました。

 

 

 このシーンでも改めて分かるのですが、信如も美登利も、お互いに相手から嫌われていると感じています。

 不器用で愛想のない信如は、春の頃から、美登利の親切心や好奇心に、どう受け答えたら良いか分からず、悩んでいました。そして、周囲から揶揄われるのが嫌でした。

 そんな理由からの言動や、夏祭り、夜の筆や、今朝の態度で、更に嫌われたと感じたでしょう。

 けれども、嫌っている自分に対してでも、困っているところを助けようとしてくれた美登利の優しさに、改めて感動したのかもしれません。

 

 一方の美登利は、春の頃からの素っ気ない態度と、長吉の言動を通し、信如が表町組で、女郎の妹である自分を嫌っていると思っています。

 しかし酉の市までは「女郎」の実状を知らなかったため、信如や長吉に軽蔑されるのは心外だと信じていました。自分の立場に誇りを持っていました。

 だから、信如がちりめんを拾ってくれなかった様に見えた事も、とてもショックだったのだろうと思います。

 

お付き合い、ありがとうございます。

 

 

 

 

樋口一葉『たけくらべ』について 「秋」第十章・第十一章の感想・解釈  「秋雨の夜」

 こんにちは。

皆様、いかがお過ごしでしょうか?

今日は、雨降りでした。

今回は、「たけくらべ」の第十章、十一章の「秋雨の夜」について書きます。

 

第十章(後半)

 

 秋風が涼しくなってきた、そんな折の、秋雨しとしと寂しい夜。

 戸を閉めていた筆やの中で、美登利と正太郎、その他に小さい子供が、おはじき遊びをしていた時。

 美登利が、外に誰かお客がきた気配がすると言い、それを聞いた正太郎は、仲間が来たのかと喜びます。しかし、その気配はふっと途絶えてしまいます。

 

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第十一章

 

 正太郎が戸を開けて「ばあ!」と言いながら顔を出すと、客らしかった人は、遠くをぽつぽつと歩いて行くところでした。

 それが信如だとわかった正太。美登利に、

声をかけても無駄だよ、あいつだから

と答えながら、自分の頭を丸めて見せます。信如の悪口を並べつつ、後ろ姿を名残惜しそうに見送る美登利。

 正太郎にどうしかしたのかと声を掛けられ、慌てる美登利。取り繕う様に、また信如の悪口を並べ立て、正太郎に同意を求めます。

 そんな二人のふざけたやり取りに、筆屋の中が盛り上がります。筆屋の女房にもからかわれた幼馴染の二人でした。

 

 

 秋雨の夜、筆やに入ろうとして、美登利と正太郎が仲良く遊んでいるのがわかった信如。

 筆も買わず、気配すらも消して、こっそり、とぼとぼと帰っていきます。それ程、辛かったのかも知れません。

 

 そんな事情を知らない美登利。

 後ろ姿をいつまでも見送る程、本当はとても気になるのに、それまでの屈辱もあり、声をかける事は出来ません。

 信如の悪口を並べ立てて、正太に同意を求めます。

 

 そんな中で、筆やの女房に、からかわれる正太と美登利。正太は動揺してムキになりますが、美登利は冷静でした。

 

 

 美登利の方は、自分が店内にいたから、信如は必要だった買い物もせずに帰ってしまったのかもしれない、それ程嫌われているのかもしれないと感じ、改めて、がっかりしたのかもしれないと思いました。

 

 

お付き合い、ありがとうございます。 

 

樋口一葉『たけくらべ』について 第一章・第八章〜十章の感想・解釈  明治吉原事情、信如、美登利の考えについて

こんにちは。

今回は、「たけくらべ」の、四季にはあまり関係のなかった章について書きます。

 

 

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第一章 

 吉原に暮らす大人たちの仕事・職業・立場について。

 住人達が、副業、内職として精を出している熊手作りについての説明。

 そうした土地柄の子供達には、どんな子供がいるか。子供達が通う育英舎という学校についての説明などがされています。

 

 

第八章

 明け方の吉原の情景。住民達の、遊郭に関する噂話。

 夕方に吉原を訪れて、明け方に帰っていく男性たちの様子。吉原の女性が人気者になる過程の例え話や、花魁人気の浮き沈み、世代交代などの説明。

 いずれにしても、人気、出世といえば、この界隈に住む者で対象になるのは「女性」の方だと書かれています。

 その一方、出世に縁のない地元の青年達は、不良的に格好をつけ、本業稼業はそこそこに、バクチや女遊びに熱中しているばかりの様子。

 

 そんな土地で暮らしているので、紀州から越してきた美登利も、吉原の常識、生活に染まっていった様です。

 今はまだ、遊女達の派手さ、美しさにばかり惹かれて、姉の本当の苦労、吉原の本当の姿も知らず、素直に憧れている美登利。そんな美登利の事を、一葉さんは

哀れである

と表現しています。

 

 吉原の遊郭内で稼いでいる人々には、芸人達もいる様です。彼らは昼間の遊郭で一稼ぎしている様ですが、郭外の町角では儲からないのを知っているので、いつもみんな素通り。

 ある日、いい声の女太夫が通り過ぎるのを筆やの女房が惜しがっていました。おきゃんな美登利は、そこで気前よく振る舞ったため、太夫を喜ばせ、居合わせた大人達を驚かせたのした。

 

 

  第九章 

 この章ではまず、龍華寺と、信如の両親の実像。両親が夫婦になった経緯。信如の姉の実像が書かれています。

 寺の人間でありながら欲深い両親、明るく世渡り上手らしい姉の日常と、長男であり弟である信如の個人的な苦しみ。 

 頑固なところはあっても、内心は意気地の無い自分を自覚し、恥じている心情などが描写されています。

 信如は、商売に積極的だったり、生臭いものを好物とする両親について、学校仲間から噂される事をひどく恐れています。学校仲間といっても、横町組の仲間ではなく、特に表町の美登利正太郎の事を意識している様です。

 

 

第十章

 祭り夜は、翌日まで留守にしていた信如。

 翌日に友人から聞き知り、長吉の乱暴に驚き、特に自分の名が使われた事を迷惑に思い、後悔します。

 失態を自ら悔いていた長吉も、後から信如に詫びます。そうした長吉を、信如は叱りはしませんでしたが、もう喧嘩が無いようにと思うのでした。

 

  祭りの夜に乱暴を受け、怪我をした三五郎。

 彼の家は貧しく、父親は、立場上も性格的にも目上の人たちに強い態度ができない人です。そんな父に事件の事を話しても、逆に叱られるだけだと思い、黙っていたのでした。

 

 しかし、日が経つと次第に忘れる性分。

 長吉の家の乳児の子守で小遣いがもらえれば、素直に嬉しい。生意気盛りの十六歳だが、あまり自尊心はなく、表町に行けば、いつも正太郎と美登利の、からかいの的になるのですが、遊び仲間から外れはしないのでした。

 

 

 

 一章と八章、十章 は、主に樋口一葉さんの視点から見た、当時の吉原の様子について、書かれていると思いました。

 説明文が多いので、理解するのが個人的に難しかった部分です。 

 

 八章の後半は、そんな吉原に住む様になった美登利が、吉原の実態や、自分が小遣い銭に不自由しない理由をまだ知らず、無邪気に憧れ、得意になっている様子が強調されていると感じました。

 

 九章は、長男の信如から見た、龍華寺の藤本家の「家族の肖像」です。

 信如の、両親や姉の価値観や暮らしぶりに対する、疑問や嫌悪感が書かれており、それが原因で自分が学友、特に美登利達から悪く思われる事を恐れている様です。

 家族の事だけでなく、自分自身の気の弱さ、行動力の無さなども恥じている信如。

 だからこそだと思うのですが、彼は、その短所を、学問と真面目さで補おうとしている様に感じました。

 

 十章(前半)は、

 祭りの翌日、乱闘を知った信如と長吉のやり取りが、少し微笑ましく思えました。

 一方、ひどい乱暴を受けた三五郎は、立場上、加害者の長吉に何も言えません。

 

 当時の吉原界隈にもあったと思われる格差社会について、書かれている様に感じました。

 

 

お付き合い、ありがとうございます。 

樋口一葉『たけくらべ』について 四季べつの感想・解釈  「春(若葉の頃)」☘ 第七章について

今日は夜に更新します。

11月も半分ほど過ぎましたが、皆様、いかがお過ごしでしょうか?

 

今回は、「たけくらべ」の「春から初夏」までの場面、七章の感想・解釈です。

 

美内すずえ先生の「ガラスの仮面」3巻の表紙が素晴らしいので、紹介させて頂きます。

私は漫画の劇中劇での亜弓さんの美登利、桜小路くんの信如も大好きなのですが、

この表紙では、マヤの美登利と桜小路くんの信如が描かれていて、とても嬉しいです。

 

ガラスの仮面 3 

 

「春から初夏」第七章

 

 この章では、場面がその年の春に戻ります。

 春から夏祭りまでに、信如美登利の間に、どの様な事があったかが書かれています。

 四月末に、学校の大運動会がありました。時間も忘れて夢中になっていた時、信如は池のほとりの松の根につまずき、地面に手をついて、羽織の袂も泥まみれになってしまいます。

 そこに居合わせた美登利が、見かねて自分の紅のハンケチを差し出しました。

  しかし、学友たちが二人を冷やかします。

 元来、そうした冷やかしを、するのも受けるのもとことん嫌いな信如。彼はそれ以来、内心は惹かれつつも、美登利を避ける様になります。

 

 学校からの帰り道、少し前を歩いていた美登利から

美しい花が咲いているのに、枝が高くて私には折れないから、代わりに折ってください

と頼まれた時は、流石に知らぬふりはできませんでした。

 信如は狼狽し、よく花を見ずに、手直な花枝を折って投げ捨てる様にして、スタスタとその場を去ってしまったのでした。

 

 流石の美登利も呆れ、傷つき、美登利の方からも信如に近づかなくなります。

 そうして二人の間には、目に見えない、大きな川が流れているような状況になったのでした。

 

  後半は、夏祭りに侮辱を受けた後の、美登利の長吉、信如に対する悔しさ、怒り、大黒寮で大事にされている自分への誇らしい気持ちが書かれています。

 その様な経緯があり、夏祭りの後、美登利は学校に行かなくなったのでした。 

 

 運動会でのハンカチの気遣いについてですが、 

 元々、心優しく世話好きの美登利にとって、それは自然な行動だったのではないかと思います。

 おそらく信如の方は、非常に驚き、本当は嬉しく、戸惑ったのではないかと思います。その一方、学友に揶揄われた恥ずかしさ、悔しさ、そうした信如の心の動きも印象的です。

 

 美登利から花の枝を頼まれた時、信如は本当は、一番綺麗な枝を選んで、渡したかったのかも知れません。 

 その他にも、無邪気な美登利の、学校での言葉かけに素直に答えられませんでした。

 美登利は、そんな信如の仕打ちに傷つき、自分からも距離を置く様になります。

 

 美登利の親切で天真爛漫な性格ゆえの言動、それに対して、内気で繊細、不器用な信如の行動。二人は、外から見ていると、本当に真逆、対照的な人柄に思えます。

 

それでも私は、二人には

曲がった事が大嫌い

という共通点があると思いました。

 

 

お付き合い、ありがとうございます。 

 

樋口一葉『たけくらべ』について 四季べつの感想・解釈  「夏」🌻 第二章〜第六章について

こんにちは!

今回は「たけくらべ」夏の場面の章につての感想・解釈を書きます。 

 

「夏」第二章〜第六章

 

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(二章)

二章の長吉と信如のやり取りは、とても興味深い文章です。

生まれ育ち、性質も真逆ながら、幼馴染の男子二人のやりとりでわかることは、

 

長吉

年下のくせに金持ち坊ちゃんぶり、大人達を味方につけて、横町組の自分たちを乱暴、頭の悪い私立だと言って貶す  

正太郎が気に食わない。 

 

信如

知識人ぶり、私立の生徒を見下し、おそらく幼馴染として、いつも美登利と仲良く遊んでいる  

正太郎が気に食わない。

 

理由は違えど 正太郎が気に食わない

と言うところで、意見が一致したため、信如は長吉に名前を貸すことにしたのではないかと、私は思います。

 

もともと乱暴な長吉とは違い、普段、乱暴が嫌いで大人しい信如が、

正太郎を取っちめたいんだ!

と持ちかけられて、だんだんテンションが上がってしまい、

最後には土産に貰った小刀をうっかり持ち出し、長吉に見せてしまいます。

 

よく利れそうだね 

と、長吉に言われておそらく、ハッと我に帰り

 

しまった危ない、これを振り回してなる事か。危ない危ないと、思ったのではないかと感じました。

 

正太郎だけでなく、信如の方も、正太郎が 恋敵 学問敵 だと言うことを、内心自覚していたのでは無いかと感じました。

 

 

(三章)

 この章で語られる美登利の生い立ちや、吉原にやってきて後の、今の暮らしぶり、彼女の無邪気な明るさ、彼女に対する周りの人々(大人達・子供達)の接し方、その理由を考えると、とても切なくなりました。

 これは推測ですが、美登利の漢字は、花魁になってからも使う源氏名なのでは?と感じました。

 長吉達の悪巧みの準備が進む一方で、表町組の正太美登利達は、祭りの遊びをどうするか、趣向を無邪気に相談しています。

お金がかかっても良いよ。私が出すから…などと気前よく言う美登利。

夏祭りの夜には筆やで幻燈をやろう!

と、相談をまとめ、その支度にかかります。

 

(四章)

    お金持ちで可愛らしい正太の、祭りの日の晴れ姿。

 対照的な、三五郎と、その家庭事情の描写。

 正太と三五郎は、何かにつけて対照的なイメージです。

 筆やで美登利が来るのを待っている時の人々のやりとり。

 正太郎は、知恵と愛嬌はあるのですが、まだ幼く小柄で、腕力が着くのは、これから……という少年です。

 おめかしで遅れている美登利を、彼は三五郎に迎えに行かせます。しかし夕飯を食べるようにと祖母が迎えにきたため、自宅に帰ってしまいます。人気者の正太が帰ると、途端にその場が寂しくなりました。

 その後、正太郎の祖母の風貌や人柄についての描写、彼女やその商売、遊郭事情などについての、女性達の井戸端会議の様子などが、シニカルに描かれていると思いました。

 四章は個人的に、理解するのが難しい章でした。

 

(五章)

 おめかしの支度がようやく整い、誇らしげに、迎えの三五郎と共に大黒寮を出た美登利。夕食のために家に戻った正太とすれ違いに、筆やにやってきます。

   正太の不在を残念がる美登利。彼女のご機嫌とりに慌てる仲間たち。しかし、その時の正太の不在を予測していなかったのは、美登利だけではありませんでした。 

 予定通りのつもりで、一群で筆やに暴れ込んできた、長吉率いる横町組の少年たち。

 

 しかし長吉は、大暴れはしたものの、正太をとっちめる事はできませんでした。

 三五郎は、諸々の事情で、二股やろうと罵られ、正太郎を引き出すための口実の様に引き出され、大勢にただ一人、暴力を振るわれました。

 美登利は、長吉の乱暴ぶり、祭りの夜に自分たちの遊び場を荒らされた事に腹が立ったのと、三五郎かばうため、少女の身で長吉に立ち向かい、あろうことか、額に草履をぶつけられたのでした。

 退散する前に、長吉が捨て台詞に

こっちには信如もついているぞ!

と言ったため、信如は間接的に、またしても美登利を傷つけ、怒らせる事になります。

 因みに、この章には二人の主要人物(正太信如)は登場しません。

 

 私は、乱闘前に夕飯という理由で、正太の祖母が迎えに来た事は、祖母が乱闘の予兆を知り、孫の正太を助けるためだったのではないかと感じています。

 正太郎の祖母は、自分自身も高齢で女性という、弱い立場です。お祖母さんは、たった一人の家族で、大事な跡取りの正太の心と体を守るために、それまでも同じ様なやり方をしてきたのではないかと思いました。

 

(六章)

  祭りの翌日、正太は、自分が不在だったせいで美登利たちが酷い目にあった事を知り、美登利に謝ります。

 夏の暑い日、正太の家での、幼馴染二人のやり取りも印象的です。

 二人の可愛らしさが際立つ場面なのですが、この場面の読みどころは、正太郎のかわゆさだと思います。作者の樋口一葉さんもかわゆさと、書いています。

 

 六章の正太郎の台詞を読んでいると、正太郎が信如を、横町組としてだけでなく、恋敵だと理解している事が読み取れます。

 一方、美登利の冷静な言葉選びに、幼馴染の正太への気持ちと、信如への気持ちが全く違うものだと言う事も、感じられる場面です。

一緒に写真を撮ろうよ

と誘う正太に、美登利は

変な顔に写ると、お前に嫌われるから

という返事で、やんわり断るのです。もしかすると、その写真を信如に見られたくなかったのかも知れません。

 

 夏の場面でもわかるのは、いかに美登利が、まだ「吉原の実態」「自分の身の行く末」を、まともに教わってもいなければ、理解もしていないという事です。

 

 

以上、第二章から第六章までの、感想・解釈でした。

 

お付き合いありがとうございます。

 

樋口一葉『たけくらべ』について 今更ながら、 主要人物紹介を少々💦

皆様、いかがお過ごしでしょうか?

私は、いろいろ考え、引き続き「たけくらべ」について書きます。💦

 

10月初旬に、私はこちらの伝記本を読みました。

 

 

それで、樋口一葉さんの人生や人柄について、それまで知らなかった事を知り、

命日が11月の下旬である事を知りました。

 

その日に向けて、個人的な感想・解釈までを記事にしたいと思った次第です。

 

今回は、改めて5人の人物紹介をさせて頂きます。

 

たけくらべ」主な人物紹介(年齢順)

 

長吉(十六歳)

鳶職人の親方の長男息子。

横町組のガキ大将的少年。

対立している表町組の正太郎を目の敵にしている。

信如とは幼馴染。

乱暴者の自分と違い、頭が良く物静かな信如を尊敬している。

 

三五郎(十六歳)

貧しい大家族の長男。

長吉の父親が大家の長屋に住む。

長吉達横町組を恐れている。

親が正太郎の祖母に借金をしている為、表町組の子供たちとも仲良くしている。

怠け者だが愛嬌があり、ひょうきん者。

 

信如(十五歳)

 

龍華寺の跡取り息子。

並みの背丈で、短く刈ったイガグリ頭。

内向的だが勉強家で、学校でも皆から一目置かれている。

家がお寺なのに、商売にも積極的な家族を恥じている。

春の運動会で美登利に親切にされて以来、美登利を避ける様になる。

 

 

美登利(十四歳)

 

華やかな装いと可愛らしい容姿。

明るく、おきゃんな性格。紀州生まれ。

姉が身売りした際、楼の主に誘われたので、両親と三人、姉のいる吉原へ越して来た。

姉の恩恵で羽振りが良く、周りの大人たちも金銭的に甘やかすため、気前よく散財する。

一つ年下の正太郎と仲が良く、表町組の人気者。

まだ花魁の本当の苦労、吉原の本当の姿を知らず、素直に憧れている。

信如の事が気になるが、避けられるので気分を害している。

 

正太郎(十三歳)

 

表町で金貸し業を営む祖母と二人暮らし。

表町組子供達のリーダー的存在。

横町組の長吉と信如をライバル視している。

経済的には裕福だが、祖母との暮らしは寂しく、両親や兄弟がいる子供たちを羨ましく思っている。

しっかり者だが、優しく繊細で、家業の手伝いも本当は辛く感じている。 

一つ年上の美登利を姉の様に慕い、憧れている。

歌を歌うのが癖。

 

 

 

皆それぞれ魅力的な子供達です。

 

今日の心のBGMは、80年代のヒット曲

チェッカーズギザギザハートの子守唄でした。
アラフィフの私は、長吉の事を考えると、この曲が浮かんできます。

 

「ちっちゃな頃から 悪ガキで〜」「十五で不良と呼ばれたよ〜」

 

長吉は、そんな子供だったのじゃないかなと、イメージしています。


チェッカーズ「ギザギザハートの子守唄」



www.uta-net.com

 

お付き合い、ありがとうございます。

 

次回からは、「春夏秋冬」季節別に物語の感想・解釈をまとめたいと思っています。
 

樋口一葉『たけくらべ』現代語訳 第十六章  「不朽の物語」の最終章「枯れる事なき花」

こんにちは!

だいぶ寒くなってきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

私事で恐縮ですが、11月4日は、私がブログを始めた日です。

 

今回は、ついに「たけくらべ」第十六章 最終章です。

ブログ4周年記念日を、この記事にする事ができて嬉しいです。

 

私個人は、この最終章は、決して悲しいだけの結末ではないと感じております。

 

この章のイメージの音楽だけは、前々から、エンヤさんの曲に決めていました。 

Amarantine

  

たけくらべ    第十六章  (晩秋から冬へ ある霜の朝)

 

 

 

 正太が道を真一文字に駆け抜けて、人中を抜けつ潜りつ、筆やの店へおどり込むと、いつの間にか祭の店じまいを済ませた三五郎が、そこに来ていた。

 前掛けのポケットに幾らかの小銭をじゃらつかせて、弟妹を引き連れた三五郎が

 

「好きな物を何でも買いな」

と、一番年上のお兄さん風をふかせ、大得意になっている最中へ、正太が飛び込んで来たのだった。

 

「やあ正さん、今ちょうど、お前の事を探していたんだ。俺は今日は、かなりの儲けがあったので、何か奢ってやろうか?」

と、三五郎が言うと、

 

「バカを言え!てめえに奢ってもらう、俺じゃあないわ!黙っていろ!生意気な事を吐くな!」

と、いつになく荒い事を言った後、

 

「おれは今は、それどころじゃないんだ」

と、ふさぎ込んで言った。

 

「何だ何だ、喧嘩か?」

と、食べかけのアンパンを懐にねじ込んで、三五郎が

「相手は誰だ?龍華寺か、長吉か?

 どこで始まったんだ、廓内か、鳥居前か?おれだって夏祭りの時とは違うぜ!

前みたいに出し抜けでさえなければ、負けねえぜ!

おれが承知だ、先頭に立ってやらあ!正さんは、肝っ玉をしっかりしておれに任せてくんねえ!」

と、息巻くので、

 

「ええい、気の早いやつめ!喧嘩ではない!」

と、しかし、流石に本当の訳は言いかねて、正太がそこで口をつぐむと、

 

「でも、お前が大事らしく飛び込んで来たから、オレは、てっきり喧嘩かと思ったんだ。だけれど正さん、今夜始まらない様なら、もうこれからは喧嘩は起こりっこはないね。長吉の野郎の片腕がいなくなるのだもの。」

と、三五郎が言った。

 

「何故?どうして片腕がなくなるんだ?」

 

「お前知らないのか?オレもたった今、ウチの父さんが龍華寺の奥さんと話していたのを聞いたのだけれど、信さんは、もう近々、どこかの坊さん学校へ入るのだとさ。

坊さんの衣を着てしまっては、手が出せねえや。

全く、あんなペラペラした、恐ろしく長い袖や裾を捲り上げるのだからね。

そうなれば来年からは、横町も表も、残らずお前の手下だよ。」

と、三五郎におだてられた正太は

「よしてくれ!どうせお前は二銭もらえば、長吉の組になるんだろう。

お前みたいな様なヤツが百人仲間にいたって、ちっとも嬉しくはないや!着きたい方へどこへでも着きやがれ!

オレは人には頼まないさ。

本当に、自分自身の腕っこで、一度、龍華寺と喧嘩をやりたかったのに……

よそへ行かれては仕方がない。

藤本は、来年学校を卒業してから行くのだと聞いていたけれど、どうして、そんなに早くなったのだろう?

しょうのない野郎だ!」

と、舌打ちした。

 しかし本当は、その事は少しも気に止まらなくて、それよりも先ほどの美登利のそぶりが頭の中で繰り返されて、正太は、何時もの歌の癖も出ないほど。

 大通りの往来の騒がしさも、心の寂しさのために、賑やかだとも思えず、火ともしの夕暮れ頃から、筆やの店の中に転がったまま。

 今日の酉の市は、メチャメチャで、何もかもが訳の分からない事だらけ

 

 

                  ※

 

 

 美登利は、あの日を境に、生まれ変わった様な身の振る舞いになった。出かける用事といえば、廓の姉のところへは通うものの、全く町では遊ばなくなった。友達が寂しがって誘いに行っても、

 

「そのうちに、そのうちに……」

 

と、空約束ばかりが果てしなく続き、あれほど仲良しだった正太とさえも親しくせず、いつも恥ずかしそうに顔だけ赤らめてばかり。

 筆やの店先での手踊りの活発さを再び見る事は難しくなってしまった。

 

 町の人々は不思議がり、病気のせいか?と、疑う人もいたけれども、母親一人だけは、平然と微笑みながら、

 

「今におきゃんの本性は現れまする。今はちょっとした中休み」

 そう訳ありげに言われても、事情を知らない者には、何の事だかわからない。

 

「女らしく、大人しくなった」

と、褒める者もいれば、

 

「せっかくの面白い子を台無しにした」

と、責める者もいた。

 

 表町は、急に火が消えた様に寂しくなり、正太の美声の歌を聞く事も稀になった。

 ただ、夜な夜なの弓張りちょうちんを見かけるだけ。あれは日がけの集金と知られていて、土手を行く正太の影は、とても寒そうで、時々お供をする三五郎の声だけが、いつもと変わらず、おどけて聞こえるのだった。

 

 龍華寺の信如が、自分の宗派の修業の場所に旅立つ噂さえも、美登利は、ずっと知らなかった。

 美登利は、信如に対する以前の意地を、そのまま心に封じ込めていたし、ここしばらくの異常な現象のために、自分を自分とも思えず、ただ全ての事を恥じいるばかりだったのだが。

 

 ある霜の朝水仙の作り花を、格子門の外から差し入れていった者があった。

 誰の仕業なのか、知るよしもなかったのだが、美登利は何ゆえともなく、愛しい思いがして、ちがい棚の一輪ざしに入れて、寂しく、その清らかな姿を愛でていたのだが……

 

 その後、聞くともなしに伝え聞いた話では、その、水仙の作り花の事があった次の日は、信如がどこかの学校に入り、袖の色を変えた、ちょうどその当日だったという。

 

                         (完)

 

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参考文献はこちらです。

たけくらべ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)

たけくらべ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)

  • 発売日: 2004/12/11
  • メディア: 文庫
 

 

 

 最終章の心のBGMはこの曲でした。

Amarantine

Amarantine

  • エンヤ
  • 洋楽
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

 今回は動画が見つからず、この様な形にしました。

 

歌詞の意味は、私は英語に詳しくはないのですが、

次の様なニュアンスなのではないかと思い、歌詞の一番だけ、勝手ながら訳してみました。

 

「Amarantine」 enya  

 

誰かに愛を贈る時は  心が開かれる様で  全てが新しく見えませんか?

そして 時はいつでも 貴方の心に 教えてくれませんか? 

それが真実だと 信じることを 

 

愛は 貴方の口から 流れるもの全て 

ささやき 言葉 約束 そうした貴方からの贈り物

 

一日の鼓動の中に 感じませんか?

これが 愛する という事だと

 

 

  Amarantine...            Amarantine ...        Amarantine...

「枯れる事ない花」   「特別な花」           「永遠の花」

 

  Love is.        Love is.        Love...  

  愛のこと  愛のこと  愛の…

 

 

たけくらべ」の現代語訳は、以上です。

第一章から十六章まで、短い様で長かったと思います。

皆様、お付き合い、ありがとうございました。

 

樋口一葉さんの「たけくらべ」の素晴らしさをお伝えしたくて、

やり慣れない事を、やってみました。

 

次回は、私個人の感想・解釈を書かせて頂けたらと思っています。m(_ _)m

 

もう直ぐ冬ですね。皆様、ご自愛ください。