こんにちは!
今回は「たけくらべ」の、かなり重要なシーンです。
今夜こそが正に
「若さ(と言うより思春期💦)とは、なんぞや!?」
という感じの夜なのよ🔥
(ゲーノ 勝手な訳m(_ _)m)
と言うイメージの第五章解説を、私個人は「筆やのおかみさん」的視点から、
ハラハラ解説します。m(_ _)m
セリフ的文章が多いので、色分けします。
長吉 三五郎 美登利
です。
たけくらべ 第五章 (夏祭りの夜 乱闘)
「待つ身につらき夜半の置炬燵(おきごたつ)……」
などという歌がある。それは恋の歌でしょう。
吹く風が涼しい夏の夕暮れ、昼の暑さを風呂に流して、身じたくの姿見の前。
美登利の母親が、娘の髪のほつれ毛をつくろいつつ、我が娘ながら、美しい様子を、立っては見、座っては見て、
「首筋の化粧が薄かったかしら?」
などと、まだ言っている。
単衣(ひとえ)は、水色の友仙(友禅)の涼しげな浴衣で、白茶金(しらちゃきん)らんの丸帯は、少し幅の狭いものを結ばせて、庭石に下駄を直す……つまり、美登利の支度が整うまでには、随分と時間が掛かった。
まだかまだかと、塀の周りを七回まわり、あくびの数も尽きて、払おうとしても名物の蚊に首筋、ひたいぎわなど、たくさん刺された三五郎が、弱り切っている時、美登利がやっと出てきて、
「もういいよ」
と言うので、三五郎は言葉も言わずに、美登利の袖を引っ張って駆けだしたら、
「息がはづむ、胸が痛い、そんなに急ぐのなら、私は知らない。お前一人で先にお行きなさいよ」
と三五郎は美登利に怒られて、時間差で別々に筆やに到着した。美登利が筆やの店に着いた時は、ちょうど正太が夕飯の途中らしく、不在だった。
「ああ、面白くない。おもしろくない。
あの正さんが来なければ、幻燈を始めるのも嫌!
伯母さん、ここの家に智恵の板(注釈一)は売っていませんか?
詰将棋なんかでも、なんでも良いです。
手が暇で困る」
と、美登利が淋しがれば、それじゃあと、即座にハサミを借りて、女子達はゲームの駒を切り抜きにかかった。男子は三五郎を中心に、九月行事の、仁和賀の歌と踊りのおさらいを始めた。
「北廓(吉原)全体を見渡せば、軒には提灯電気燈、いつも賑わっている五丁町!」
と、みんなでおかしく、はやし立てるが、みんな、物覚えが良いので、
去年、一昨年とさかのぼって、手振り手拍子が一つも代わり映えしていない。
こうした、浮かれだった、十人あまりの騒ぎを聞きつけて、何事か?と門に人垣ができていた中から呼び声がした。
「三五郎はいるか?ちょっと来てくれ、大急ぎだ!」
と、文次(ぶんじ)という、元結よりが呼んだので、三五郎が、何も疑わずに
「おいしょ、よしきた!」
と、身軽に敷居を超えた時、
「この二股やろう!覚悟をしろ!横町の面よごしめ、タダでは置かないぞ!
誰だと思う?長吉だ!
生ふざけた真似をして、後悔するな!」
と、頬骨を一撃ちして、「あっ」と、驚いて逃げようとする三五郎の襟がみを、つかんで引き出す、横町組の少年達。
「それ、三五郎をたたき殺せ!正太を引き出してやってしまえ!弱虫め、逃げるな!
団子屋のトンマも、タダでは置かないぞ!」
と、海岸の潮の様に沸き返る騒ぎ。筆やの軒の掛けちょうちんが、苦もなくたたき落とされたので、
「釣りランプが危ない、店先の喧嘩はやめて下さいよ!」
と、筆やの女房が騒ぐのを聞くはずもない。
人数はおおよそ十四、五人。ねじり鉢巻きに大万燈をふりたてて、当たるがままの乱暴狼藉。土足に踏み込む傍若無人、目指すカタキの正太が見えなければ、
「正太をどこへ隠した!あいつはどこへ逃げた?さあ、言わねえか!言わねえか!
言わさずには置くものか!」
と、三五郎を囲んで、打つやら、蹴るやら。美登利はくやしくて、止める人をかきのけて、
「何よ!あんた達は、三ちゃんに何のとがあるの!
正太さんと喧嘩がしたけりゃ、正太さんとすれば良いじゃないの!
逃げもしなけりゃ、隠しもしないよ!
正太さんはいないじゃない!
ここは私の遊び場よ!
あんた達には、指でもささせはしないよ!
ええ、憎らしい、長吉め!
三ちゃんをなぜぶつの!
もう、また引き倒した!
文句があるなら、私を撃ちなさいよ!相手には私がなるわよ!
伯母さん、止めないでください!」
と、身もだえして罵ると、
「何を、女郎が大口をたたきやがる!姉の後継の乞食め!
てめえの相手には、これが相応しいぞ!」
と、多人数の後ろから長吉が、履いていた泥草履を掴んで投げつけると、狙いを外さず、美登利の額ぎわに、むさ苦しい草履が、したたかに当たった。
美登利が血相を変えて立ち上がるのを、怪我でもしては大変と、抱き止める筆やの女房。
「ざまを見ろ!
こっちには、龍華寺の藤本がついているぞ!
仕返しには、いつでも来い!
うす馬鹿野郎め!
弱虫め!
腰抜けの意気地なしめ!
帰りには待ち伏せするぞ!
横町の闇には気をつけろよ!覚悟しとけよ!」
と、三五郎を筆やの土間に投げ出すと、その時、靴音が。誰かが、交番へ知らせに行った事を、今、知ったのだった。
「それ!」
と、長吉が声をかけると、丑松、文次、その他の十余人が、方角を変えて、バラバラと逃げ足も早く、抜け裏の路地にかがんだ者も居たであろう。
「悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!
長吉め!文次め!丑松め!
なぜ俺を殺さない?殺さないのか!
俺も三五郎だ、唯では死ぬものか!
幽霊になっても、取り殺すぞ!
覚えていろ、長吉め!」
と、三五郎は、湯玉の様な涙をハラハラと流し、しまいには大声でわっと泣き出したのだった。
身体中が、さぞ痛い事だろう。袖の処々が引き裂かれていて、背中も腰も砂まみれ。
止めるにも止めかねて、勢いの凄まじさに、ただオドオドと気を飲まれていた筆やの女房が、走り寄って三五郎を抱き起こし、背中を撫でて砂を払いながら言った。
「堪忍をし!堪忍をし!
なんと思っても、相手は大勢、こちらは皆、弱いものばかりだったから。
大人でさえ手が出しかねたのだから、叶わないのは知れているよ。
それでも怪我のなかったは、幸せだった。
この後は帰り道の待ち伏せが危ないよ。
幸い、いらした巡査さまに家まで送って頂ければ、私達も安心だよ。
この通りの事情でございますので」
と、これまでの事を巡査に語ると、巡査が
「仕事だから、さあ送るよ」
と、手を取ろうとすると、三五郎は
「いえいえ、送ってくださらずとも帰ります。一人で帰ります」
と、小さくなるので、
「これ、私を怖がることはない。お前を家まで送るだけの事だよ、心配するな」
三五郎は巡査に、微笑みを含んで、頭を撫でられたので、いよいよ縮みこんだ。
「喧嘩をしたというと、とっつあんに叱られます。頭の家は大家さんでござりますから」
といって、萎れている理由がわかったので、巡査は
「それならば、家の門口まで送ってやるよ。お前が叱られる様な事はせぬよ」
といって三五郎が連れられていくので、周りの人々が、ホッとして遠くまで見送っていたのだが、何とけしからん事だろう。
三五郎は横町の角辺りで巡査の手を離して、一目散に逃げていったのだった。
注釈一
昔のボード・ゲームの様なもの
以上、第五章です。
参考文献はこちらです。
と言う訳で、今回の心のBGMは、
邦題 「今夜はANGEL」
英題 「Tonight Is What It Means To Be Young」
でした。
長吉視点からのイメージでは、デーモン閣下・バージョンが、個人的に合うかなと思いました。
補足ですが、この章の長吉はひどいワルなのですが、実は優しさも隠し持っている16歳
男子なのです💦
おきゃんな美登利視点からは、やはりビジュアルはダイアン・レインさん・バージョンかなと思いました。
以上、第五章の解説でした。
今回は、ストーリー展開の臨場感が台無しになりそうなので、
野暮な挿絵は・・やめておきました💦
お付き合い、ありがとうございます。