※ 11月23日午前中に、12回に分けていた『大つごもり』の現代語訳を、
8回にまとめ直しました。
ご迷惑をおかけしていましたら、申し訳ありません。
こんにちは。
今回は、『大つごもり』の最終回です。
樋口一葉『大つごもり』私なりの現代語訳 その8
「お母様、ご機嫌よう!良い新年をお迎えなされませ。では、そう言う事でしたら、私は参りましょう」
と、暇乞いもわざと恭しく言い、
「お峯、下駄を直せ!お玄関からのお帰りではない。我が家からのお出かけだぞ!」
と、図々しく大手を振って出て行った。石之助の行き先は、一体どこなのであろうか?
父の涙も、どうせ一晩のその場凌ぎで、夢の事になるのだろう。
(持ってはならないのは放蕩息子。
持ってはならないのは放蕩息子に育てる継母だ)
と、思っているのだ。
奥様は、お浄めの塩こそふらなかったが、息子の痕跡をひとまず掃き出して、若旦那の退散を喜んだ。
「お金は惜しいけれど、見るのも嫌だから、家に居ないだけでも上々だ!
一体どうすれば、あの様に図太くなられるのか…
あの子を産んだ母親の顔が見たいわ!」
と、奥様は例によって毒舌を磨くのだった。
※
お峯は、この出来事ですら、何も耳に入らず、上の空だった。犯した罪の恐ろしさに
(本当に私なのか?人なのか?さっきの仕業は…)
と、今更、夢路をたどっていた。
(考えてみれば、この事は、ばれずに済んでしまう事だろうか?万ほどの中の一枚だったとしても、数えれば明白だろうに…
元々お願いしていた金額だし、ちょうど見ている人もいなかったから、やってしまったけれど…
疑いは何処に向くだろう?
調べられたらどうしよう?
何と言おう?
たとえ言い逃れられたとしても罪は深い。
白状したら伯父にも罪が掛かってしまう。
自分の罪は覚悟の上だけれど、実直な伯父様にまで濡れ衣を着せて…
その上に自分の仕事が無くなったら、もっと貧乏になってしまう。
この様な事をする者と、人が言いはしないか?
ああ悲しい!どうすれば良いの?
伯父様に傷のつかぬ様に、自分が今すぐ死んでしまえる方法はないだろうか…)
と、目は奥様の立ち居動きに釘付け。しかし心は、かけ硯の金庫の方をさまようのだった。
※
「大勘定」といって、その夜に有るだけのお金をまとめて、封印する習慣がある。
奥様は、
「そうだ、そうだ!」
と思い出して、
「かけ硯に先ほど、屋根やの太郎に貸付た戻り金が…あれが二十ございました。
お峯、お峯!かけ硯を、ここへ持って来ておくれ!」
と、奥の間から呼ばれたお峯。
(もはや、その時が来た!私の命は無きもの!)
奥様は大旦那様に御目通りして、始めからの報告を…無情そのままに言ってしまった。
(もう隠す術もなく、方法もない…
正直なのが私の取り柄。逃げもせず、隠れもせず、
『したくはありませんでしたが、盗みました』
と、白状はしましょう…伯父様が同罪でない事だけを、何処までも話して…
聞き入られなければ、仕方がない。この場で舌を噛み切って死んだのなら、この私の命に変えて、嘘とは思われないだろう…)
それ程までに度胸がすわっても、奥の間へ行く間の心境は、屠殺処に引かれていく羊の様だった…
※
お峯が盗んだのは、唯の二枚。残りは十八枚あるべき筈なのだが、どうした事だろうか?
「束ごとない!」
と叫んで、奥様が引き出しの底を返して振ってみても無駄であった。
怪しくも、はらりと落ちた紙切れが一枚。いつの間にしたためたものか、受け取り状の一通。
(引き出しの分も拝借致しました。 石之助)
「さては、どら息子の仕業か!」
と、家の人々は顔を合わせて呆れただけだったので…
お峯が調べられる事はなかったのだった。
(私にとっての、日頃の行いのお恵みが、私が知らないうちに、たまたま石之助さんの罪になってしまったのだろうか…?
いやいや、もしかすると石之助さんは知っていて、ついでに私の罪をも被ってくれたのかも知れない…)
もしそうだったとしたら、石之助は、お峯の守り本尊に違いない。
後の事しりたや。(この後どうなったのか、知りたいものだ)
完
とうとう、最終回の現代語訳が終わりました。
参考文献はこちらです。
今回の私の心のBGMは、最終回を記念して三曲にしました。
使ってはいけない動画でしたら、申し訳ありません。
何となく、石之助の破天荒な不良っぷりを思い、矢吹丈の事が脳裏を過りました。
やはり、石之助に必要なのは、
良き師匠
なのでは?と思い、丹下段平師匠も脳裏を過りました。
最後はこちらの曲
最初は、お峯ちゃんの立場がシ○デ○ラ 似てるなーと…
次に、石之助の登場で… シ◯デ○ラは こっちだった… ?と思った時もあったのですが。
最後は、こう思うに至りました。
石之助は、守り本尊… てか、王子様… ? じゃなくて、 魔法使いだった…?
あと、やはりすごいと思ったのは、最後の一文
後の事しりたや。
です。
明治日本の文学は、
「めでたし、めでたし」
と言う感じではなかったのでしょうか?
本当に、この後、お峯と石之助は、どうなったのでしょうね?
私も非常に気になります。
山村石之助の、明日はどっちだ!
(丹下段平師匠ふうに💦)
『大つごもり』の現代語訳は、少しずつ進めて、少しずつ記事をアップしていきましたので、
読みにくかった事と思います。
序盤の、お峯ちゃん一家についてのあたりを書いていた時は、
このお話は、記事にして良いのだろうか?
と、迷った時もあったのですが。
思い直して、何とか最後まで書く事ができました。
皆様、お付き合い、ありがとうございました。