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樋口一葉「たけくらべ」について 〜 私なりの現代語訳 第五章 〜

立て続けに失礼します。

今回は、セリフの様に思えた箇所を、太字にしてあります。

 

たけくらべ  第五章

 

 

待つ身につらき夜半の置炬燵(昔の端歌の一節)それは恋でしょう。

吹く風が涼しい夏の夕暮れ、昼の暑さを風呂に流して、身じたくの姿見(鏡)の前。

(美登利の)母親が、娘の髪の毛をつくろいつつ、我が娘ながら、美しい様子を、

立っては見、座っては見て、

 

首筋の化粧が薄かっただろうか

 

などと言っている。

 

単衣(ひとえ)は、水色の友仙(友禅)の涼しげな浴衣で、白茶金(しらちゃきん)らんの丸帯は、少し幅の狭いものを結ばせて、庭石に下駄を直す(支度が整う)までには、随分と時間が掛かった。

 

まだかまだかと、塀の周りを七回まわり、あくびの数も尽きて、払おうとしても名物の蚊に首筋、ひたいぎわなど、たくさん刺された三五郎が、弱り切っているとき、美登利が(やっと)出てきて、

いいよ

と言うので、こちら(三五郎)は言葉も言わずに(美登利の)袖を引っ張って駆けだしたら、

 

息がはづむ、胸が痛い、そんなに急ぐのなら、私は知らない。

お前一人で先にお行きなさいよ。

 

と(三五郎は美登利に)怒られて、時間差で別々に筆やに到着した。

(美登利が)筆やの店に着いた時は、ちょうど正太が夕飯の途中らしく、不在だった。

 

ああ面白くない。おもしろくない。

あの人(正太郎)が来なければ、幻燈を始めるのも嫌!

伯母さん、ここの家に智恵の板(昔のボード・ゲームの様なもの)は売っていませんか?

十六武蔵詰将棋の様なもの)でもなんでも良いです。

手が暇で困る。

 

と、美登利が淋しがれば、それじゃあと、即座にハサミを借りて女子達は(ゲームの駒を?)切り抜きにかかった。男は三五郎を中心に、にわかの(歌と踊りの?)おさらい(を始めた。)

 

北廓(吉原)全体(?)を見渡せば、軒には提灯電気燈、いつも賑わっている5丁町!

 

と、皆んなでおかしく、はやし立てるが、皆んな、物覚えが良いので(皮肉?)、

去年、一昨年とさかのぼって、手振り手拍子が一つも代わり映えしていない。

 

こうした、浮かれだった、十人あまりの騒ぎを聞きつけて、何事か?と門に人垣ができていた中から(呼び声がした。)

 

三五郎はいるか?ちょっと来てくれ、大急ぎだ!

 

と、文次(ぶんじ)という、元結よりが呼んだので、

三五郎が、何も疑わずに

 

おいしょ、よしきた!

 

と、身軽に敷居を超えた時、

 

この二股やろう!覚悟をしろ!横町の面よごしめ、タダでは置かないぞ!

誰だと思う?長吉だ!

生ふざけた真似をして、後悔するな!

 

と、頬骨を一撃ちして、

 

あっ と、驚いて逃げようとする襟がみを、つかんで引き出す、横町組の少年達。

 

それ、三五郎をたたき殺せ!正太を引き出してやってしまえ!弱虫め、逃げるな!

 

団子屋のとんま(二股系表町組の一人?)も

 

タダでは置かないぞ!

 

と、(海岸の)潮の様に沸き返る騒ぎ。

筆やの軒の掛けちょうちんが、苦もなくたたき落とされたので、

 

釣りランプが危ない、店先の喧嘩はやめて下さいよ!

 

と、(筆やの)女房が騒ぐのを聞くはずもない。

人数はおおよそ十四、五人。ねじり鉢巻きに大万燈をふりたてて、当たるがままの乱暴狼藉。

土足に踏み込む傍若無人、目指すカタキの正太が見えなければ、

 

(正太を)どこへ隠した!(あいつは)どこへ逃げた?さあ、言わねえか!言わねえか!

言わさずには置くものか!(言わないと、承知しねえぞ!)

 

と、三五郎を囲んで、打つやら、蹴るやら。

美登利はくやしくて、止める人をかきのけて、

 

何よ!あんた達は、三ちゃんに何のとがあると言うの?

正太さんと喧嘩がしたけりゃ、正太さんとすれば良いじゃないの!

逃げもしなけりゃ、隠しもしないよ!

正太さんはいないじゃない!

ここは私の遊び場よ!

あんた達には、指でもささせはしないよ!

ええ、憎らしい、長吉め!

三ちゃんをなぜぶつの!

もう、また引き倒した!

文句があるなら、私を撃ちなさいよ!相手には私がなるわよ!

伯母さん、止めないでください!

 

と、身もだえして罵ると、

 

何を、女郎が大口をたたきやがる!

姉の後継の乞食め!

てめえの相手には、これが相応しいぞ!

 

と、多人数の後ろから長吉が、(履いていた?)泥草履を掴んで投げつけると、狙いを外さず、美登利の額ぎわに、むさ苦しい物(泥草履)が、したたかに当たった。

 

(美登利が)血相を変えて立ち上がるのを、怪我でもしては大変と、抱き止める(筆やの)女房。

ざまを見ろ!

こっちには、龍華寺の藤本がついているぞ!

仕返しには、いつでも来い!

うす馬鹿野郎め!

弱虫め!

腰抜けの意気地なしめ!

帰りには待ち伏せするぞ!

横町の闇には気をつけろよ!(覚悟しとけよ)

 

と、三五郎を(筆やの)土間に投げ出すと、その時、靴音が。

誰かが、交番へ知らせに行った事を、今、知ったのだった。

 

それ!

 

と、長吉が声をかけると、丑松、文次、その他の十余人が、方角を変えて、

バラバラと逃げ足も早く、抜け裏の路地にかがんだ者も居たであろう。

 

悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!

長吉め!文次め!丑松め!

なぜ俺を殺さない?殺さないのか!

俺も三五郎だ、唯では死ぬものか!

幽霊になっても、取り殺すぞ!

覚えていろ、長吉め!

 

と、湯玉の様な涙を、ハラハラと流し、しまいには大声でわっと泣き出したのだった。

 

身体中が、さぞ痛い事だろう。

袖の処々が引き裂かれていて、背中も腰も砂まみれ。

止めるにも止めかねて、勢いの凄まじさに、ただオドオドと気を飲まれていた筆やの女房が、

走り寄って(三五郎を)抱き起こし、背中を撫でて砂を払い(ながら言った。)

 

堪忍をし!堪忍をし!

なんと思っても、相手は大勢、こちらは皆、弱いものばかり(だったから。)

大人でさえ手が出しかねたのだから、叶わないのは知れているよ。

それでも怪我のなかったは、幸せだった。

この後は(帰り道の)待ち伏せが危ないよ。

幸い、いらした巡査さまに家まで送って頂ければ、私達も安心だよ。

この通りの事情でございますので・・

 

と、これまでの事を巡査に語ると、

 

(巡査が)仕事だから、さあ送るよ

 

と、手を取ろうとすると、

 

(三五郎は)いえいえ、送ってくださらずとも帰ります。一人で帰ります。

 

と、小さくなるので、

 

これ、(私を)怖がることはない。お前を家まで送るだけの事だよ、心配するな。

 

(三五郎は巡査に)微笑みを含んで、頭を撫でられたので、いよいよ縮みこんだ。

 

喧嘩をしたというと、とっつあんに叱られます。

頭(かしら)の家は大家さんで御座りますから・・

 

といって、萎れている理由がわかったので、(巡査は)

 

それならば、(家の)門口まで送ってやるよ。

(お前が)叱られる様な事はせぬよ。

 

といって(三五郎が)連れられていくので、周りの人々が、ホッとして遠くまで見送っていたのだが、何とけしからん事だろう。

(三五郎は)横町の角辺りで巡査の手を離して、一目散に逃げていったのだった。

 

 

ここで第五章 終了です。

 

この章は、夏祭りの夜の筆やが舞台です。

 

おめかしの支度がようやく整い、誇らしげに、迎えの三五郎と共に大黒寮を出た美登利。

 

夕食のために家に戻った正太とすれ違いに、筆やにやってきます。

 

正太の不在を残念がる美登利。彼女のご機嫌とりに慌てる仲間たち。しかし、その時の正太の不在を予測していなかったのは、美登利だけではありませんでした。

 

予定通りのつもりで、一群で筆やに暴れ込んできた、長吉率いる横町組の少年たち。

 

長吉の正太郎に対する、常日頃の怒り

美登利の(乱暴で卑怯な事をし、更に自分の事を侮辱した)長吉に対する怒り

三五郎の長吉に対する、怒りと恐れ

 

主にそれらが、描かれています。

そして、この章には、二人の主要人物(正太と信如)が登場しません。

 

この章では、

長吉は(大暴れはしても)本懐を遂げる(正太をとっちめる)ことができませんでした。

三五郎は、諸々の事情で、二股やろうと罵られ、正太郎を引き出すための口実の様に、引き出され、大勢にただ一人、暴力を振るわれました。

美登利は、長吉の乱暴ぶり、せっかくの祭りの夜に、自分たちの遊び場を荒らされた事に腹が立ったのと、三五郎かばうため、少女の身で長吉に立ち向かい、あろうことか、額に草履をぶつけられたのでした。

 

 参考文献はこちらです。

 

たけくらべ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)

たけくらべ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)

  • 発売日: 2004/12/11
  • メディア: 文庫
 

 

 

ありがとうございます。