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樋口一葉『大つごもり』私なりの現代語訳  〜 その2 〜

こんにちは。

 

前回の続きを失礼します。

 

樋口一葉『大つごもり』私なりの現代語訳  その2 

 

 秋ごろから、お峯のたった一人の伯父が病気になっていた。

 

 伯父は、商売の八百屋の店もいつの間にか閉じて、同じ町内ながらも、裏屋住まいになっている事は聞いているのだけれど…

 何しろ厳しい主人の下で雇われている身だから、お給料の前借りなどすれば、この身は売ったも同然。

 

(せめてお見舞いに行きたいのですが…)

 

 と、お願いする事もできない状況なので心苦しい。お使い先のちょっとの間すらも、時計を気にしなければならず、少しでも遅れれば

 

「 いったい、どこまで何しに行ってたんだい?」

 

と、その追求はいつも厳しい。

 

(急いで、無理にでも行ってしまえば…)

 

とも思うけれど、悪事千里(悪い事をすれば、すぐに知れ渡るという事)と言うし、せっかくの今までの我慢苦労を水の泡にして、お暇とでもなったら、ますます病人の伯父に心配をかけるだけだろう。貧しい一家に、一日でも迷惑をかけるのも申し訳ない。そんな訳で、

 

(そのうちには…)

 

と、手紙ばかりは出していても、身はここから離れる事ができず、仕方なしに日々を送っていたのだった。

 

                    ※

 

 師走の月で世間全体が慌ただしい中なのに、わざわざ選んだ様に着飾って

 

「おととい、どちらも始まったと聞いている噂の芝居も狂言も、どちらも面白い新作だそうよ!これを見逃したら大変だわ!」

 

と、山村家の娘たちが騒ぐので、

 

「芝居狂言見物は、十五日と決めた。家中みんなで出かけるよ!」

 

との、珍しいおふれが出た。

 こうしたお出かけのお供は、いつもなら嬉しいはずなのだが、親亡き後は親代わりである、大切な伯父のお見舞いもせずに、お峯は遊びに出歩く気にもなれない。

 

(奥様のご機嫌を損ねたら、それまでだけど…)

 

と思いつつ、お峯は思い切って

 

「遊びの代わりに、少しお暇を頂けませんでしょうか?」

 

と願い出てみた。すると、流石に日頃の勤めぶりが功を奏したのか、次の次の日に

 

「早くいって早く帰ってきなさいよ!」

 

と、奥様が言った。さてもまあ、気まぐれな仰せなので

 

「ありがとうございます!」

 

と、言ったかどうかも覚えていないほどに急いで、気がつけば人力車に乗っていて

 

(小石川はまだかしら…)

 

と、じれったく思うお峯であった。

 

 

参考文献はこちらです。

 

 

 

今回はここまでに致します。

お付き合いありがとうございました。