芸術は心のごはん🍚

映画・小説・漫画・アニメ・音楽の感想、紹介文などを書いています。

樋口一葉『たけくらべ』現代語訳 第五章「今夜はエンジェル」&デーモン閣下的な?乱闘シーンをハラハラ解説🦹‍♀️  

 こんにちは!

今回は「たけくらべ」の、かなり重要なシーンです。

 

今夜こそが正に

「若さ(と言うより思春期💦)とは、なんぞや!?」

という感じの夜なのよ🔥

(ゲーノ 勝手な訳m(_ _)m)

 

と言うイメージの第五章解説を、私個人は「筆やのおかみさん」的視点から、

ハラハラ解説します。m(_ _)m

 

セリフ的文章が多いので、色分けします。

長吉 三五郎 美登利 

です。

 

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たけくらべ  第五章  (夏祭りの夜 乱闘)

 

 

「待つ身につらき夜半の置炬燵(おきごたつ)……」

などという歌がある。それは恋の歌でしょう。

 

 吹く風が涼しい夏の夕暮れ、昼の暑さを風呂に流して、身じたくの姿見の前。

 美登利の母親が、娘の髪のほつれ毛をつくろいつつ、我が娘ながら、美しい様子を、立っては見、座っては見て、

 

「首筋の化粧が薄かったかしら?」

 

などと、まだ言っている。

 

 単衣(ひとえ)は、水色の友仙(友禅)の涼しげな浴衣で、白茶金(しらちゃきん)らんの丸帯は、少し幅の狭いものを結ばせて、庭石に下駄を直す……つまり、美登利の支度が整うまでには、随分と時間が掛かった。

 

 まだかまだかと、塀の周りを七回まわり、あくびの数も尽きて、払おうとしても名物の蚊に首筋、ひたいぎわなど、たくさん刺された三五郎が、弱り切っている時、美登利がやっと出てきて、

 

「もういいよ」

 

と言うので、三五郎は言葉も言わずに、美登利の袖を引っ張って駆けだしたら、

 

「息がはづむ、胸が痛い、そんなに急ぐのなら、私は知らない。お前一人で先にお行きなさいよ」

 

と三五郎は美登利に怒られて、時間差で別々に筆やに到着した。美登利が筆やの店に着いた時は、ちょうど正太が夕飯の途中らしく、不在だった。

 

「ああ、面白くない。おもしろくない。

あの正さんが来なければ、幻燈を始めるのも嫌!

伯母さん、ここの家に智恵の板(注釈一)は売っていませんか?

詰将棋なんかでも、なんでも良いです。

手が暇で困る」

 

と、美登利が淋しがれば、それじゃあと、即座にハサミを借りて、女子達はゲームの駒を切り抜きにかかった。男子は三五郎を中心に、九月行事の、仁和賀の歌と踊りのおさらいを始めた。

 

「北廓(吉原)全体を見渡せば、軒には提灯電気燈、いつも賑わっている五丁町!」

 

と、みんなでおかしく、はやし立てるが、みんな、物覚えが良いので、

去年、一昨年とさかのぼって、手振り手拍子が一つも代わり映えしていない。

 こうした、浮かれだった、十人あまりの騒ぎを聞きつけて、何事か?と門に人垣ができていた中から呼び声がした。

 

「三五郎はいるか?ちょっと来てくれ、大急ぎだ!」

 

と、文次(ぶんじ)という、元結よりが呼んだので、三五郎が、何も疑わずに

 

「おいしょ、よしきた!」

 

と、身軽に敷居を超えた時、

 

「この二股やろう!覚悟をしろ!横町の面よごしめ、タダでは置かないぞ!

誰だと思う?長吉だ!

生ふざけた真似をして、後悔するな!」

 

と、頬骨を一撃ちして、「あっ」と、驚いて逃げようとする三五郎の襟がみを、つかんで引き出す、横町組の少年達。

 

「それ、三五郎をたたき殺せ!正太を引き出してやってしまえ!弱虫め、逃げるな!

団子屋のトンマも、タダでは置かないぞ!」

 

と、海岸の潮の様に沸き返る騒ぎ。筆やの軒の掛けちょうちんが、苦もなくたたき落とされたので、

 

「釣りランプが危ない、店先の喧嘩はやめて下さいよ!」

 

と、筆やの女房が騒ぐのを聞くはずもない。

 人数はおおよそ十四、五人。ねじり鉢巻きに大万燈をふりたてて、当たるがままの乱暴狼藉。土足に踏み込む傍若無人、目指すカタキの正太が見えなければ、

 

「正太をどこへ隠した!あいつはどこへ逃げた?さあ、言わねえか!言わねえか!

言わさずには置くものか!」

 

と、三五郎を囲んで、打つやら、蹴るやら。美登利はくやしくて、止める人をかきのけて、

 

「何よ!あんた達は、三ちゃんに何のとがあるの!

正太さんと喧嘩がしたけりゃ、正太さんとすれば良いじゃないの!

逃げもしなけりゃ、隠しもしないよ!

正太さんはいないじゃない!

ここは私の遊び場よ!

あんた達には、指でもささせはしないよ!

ええ、憎らしい、長吉め!

三ちゃんをなぜぶつの!

もう、また引き倒した!

文句があるなら、私を撃ちなさいよ!相手には私がなるわよ!

伯母さん、止めないでください!」

 

と、身もだえして罵ると、

 

「何を、女郎が大口をたたきやがる!姉の後継の乞食め!

てめえの相手には、これが相応しいぞ!」

 

と、多人数の後ろから長吉が、履いていた泥草履を掴んで投げつけると、狙いを外さず、美登利の額ぎわに、むさ苦しい草履が、したたかに当たった。

美登利が血相を変えて立ち上がるのを、怪我でもしては大変と、抱き止める筆やの女房。

 

「ざまを見ろ!

こっちには、龍華寺の藤本がついているぞ!

仕返しには、いつでも来い!

うす馬鹿野郎め!

弱虫め!

腰抜けの意気地なしめ!

帰りには待ち伏せするぞ!

横町の闇には気をつけろよ!覚悟しとけよ!」

 

と、三五郎を筆やの土間に投げ出すと、その時、靴音が。誰かが、交番へ知らせに行った事を、今、知ったのだった。

 

「それ!」

 

と、長吉が声をかけると、丑松、文次、その他の十余人が、方角を変えて、バラバラと逃げ足も早く、抜け裏の路地にかがんだ者も居たであろう。

 

「悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!

長吉め!文次め!丑松め!

なぜ俺を殺さない?殺さないのか!

俺も三五郎だ、唯では死ぬものか!

幽霊になっても、取り殺すぞ!

覚えていろ、長吉め!」

 

と、三五郎は、湯玉の様な涙をハラハラと流し、しまいには大声でわっと泣き出したのだった。

 

 身体中が、さぞ痛い事だろう。袖の処々が引き裂かれていて、背中も腰も砂まみれ。

 止めるにも止めかねて、勢いの凄まじさに、ただオドオドと気を飲まれていた筆やの女房が、走り寄って三五郎を抱き起こし、背中を撫でて砂を払いながら言った。

 

「堪忍をし!堪忍をし!

なんと思っても、相手は大勢、こちらは皆、弱いものばかりだったから。

大人でさえ手が出しかねたのだから、叶わないのは知れているよ。

それでも怪我のなかったは、幸せだった。

この後は帰り道の待ち伏せが危ないよ。

幸い、いらした巡査さまに家まで送って頂ければ、私達も安心だよ。

この通りの事情でございますので」

 

と、これまでの事を巡査に語ると、巡査が

 

「仕事だから、さあ送るよ」

 

と、手を取ろうとすると、三五郎は

 

「いえいえ、送ってくださらずとも帰ります。一人で帰ります」

 

と、小さくなるので、

 

「これ、私を怖がることはない。お前を家まで送るだけの事だよ、心配するな」

 

 三五郎は巡査に、微笑みを含んで、頭を撫でられたので、いよいよ縮みこんだ。

 

「喧嘩をしたというと、とっつあんに叱られます。頭の家は大家さんでござりますから」

 

といって、萎れている理由がわかったので、巡査は

 

「それならば、家の門口まで送ってやるよ。お前が叱られる様な事はせぬよ」

 

といって三五郎が連れられていくので、周りの人々が、ホッとして遠くまで見送っていたのだが、何とけしからん事だろう。

 三五郎は横町の角辺りで巡査の手を離して、一目散に逃げていったのだった。

 

 

注釈一

昔のボード・ゲームの様なもの

 

 

 

以上、第五章です。

 

参考文献はこちらです。

たけくらべ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)

たけくらべ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)

  • 発売日: 2004/12/11
  • メディア: 文庫
 

 

 

と言う訳で、今回の心のBGMは、

邦題 「今夜はANGEL」

英題  「Tonight Is What It Means To Be Young」

でした。

 

長吉視点からのイメージでは、デーモン閣下・バージョンが、個人的に合うかなと思いました。

補足ですが、この章の長吉はひどいワルなのですが、実は優しさも隠し持っている16歳

男子なのです💦

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www.uta-net.com

 

おきゃんな美登利視点からは、やはりビジュアルはダイアン・レインさん・バージョンかなと思いました。 

www.nicovideo.jp

 

以上、第五章の解説でした。

 

今回は、ストーリー展開の臨場感が台無しになりそうなので、

野暮な挿絵は・・やめておきました💦

 

お付き合い、ありがとうございます。

 

樋口一葉『たけくらべ』  第四章「お祭りの夜」で「胸が騒い」でる少年達を、ドキドキ解説🎇  〜 私なりの現代語訳(再推敲) 〜 

 こんにちは!

第四章の解説です。

いよいよ「夏祭り」の夜が、やってきました。

 

「夏祭り」と聞くとソワソワ・ドキドキしちゃう!

そんな皆様に読んで頂けると嬉しいです!!

 

「夏祭り」と言えば、whiteberryさんの名曲♪

 

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「お祭りの夜はー 胸がさ・わーいだよー♪」

と言う訳で、胸騒ぎの第四章 解説を、失礼しますm(_ _)m

 

今回も、一部、セリフの色分けをしました。

 

正太  三五郎  正太の祖母

です。

 

たけくらべ  第四章 (夏祭り当日 胸騒ぎの宵の口)

 

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 年中いつも太鼓や三味線の音色に事欠かない、吉原という場所でも、夏祭りは特別な日。秋の酉の市を除いては、一年に一度の賑やかな行事である。

 

 三島様、小野照様、お隣どうし、負けるものかという競争心も面白い。横町も表町も、揃いは同じの真岡木綿の浴衣に、それぞれの町名をくずして入れたのを、去年よりは好ましくない図柄だと、つぶやく人もいた。

 

 くちなし染めの麻のたすきは、なるたけ太いのが好みの、十四、五歳より小さい子供達。

 そんな幼い子達は、ダルマ、ミミズク、犬のはりこなど、祭りのお店で買い集めた様々なオモチャの数の多いほど自慢げにして、七つ、九つ、十一も、つけている子供もいる。

 大小の鈴を背中にガラつかせて、駆け出していく子供達の足袋、素足の様子は、勇ましくも可愛らしい。

 

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 そうした子供達の群れを離れた田中の正太は、赤スジ入りの印はんてん、色白の首筋に紺の腹がけと、いつもとは見慣れぬいでたち。

 しごいて締めた帯の水浅黄も、見てくださいな、ちりめんの上染(じょうぞめ)、エリの印も際立っていて、うしろハチマキに山車(だし)の花のひと枝、革の鼻緒の雪駄の音はさせつつ、正太は他の少年達の馬鹿騒ぎの仲間には入らなかった。

 

 宵宮、つまり祭りの前夜は、何事もなく過ぎた。

 祭り当日の日も暮れてきて、筆やの店に集まった、表町組の仲間は十二人。一人欠けている美登利の夕化粧の長さに、まだかまだかと、正太は門を出たり入ったりしていた。

 

「おい、呼んで来い、三五郎、お前はまだ大黒屋の寮へ行った事がないだろう。庭先から美登利さんと呼べば、聞こえるはずだから、早く早く!」

 

と、正太郎。

 

「それならば俺が呼んでくるよ。万燈はここへあづけていけば、誰もロウソクを盗まないだろう。正太さん、番を頼むよ」

 

と、三五郎。

 

「ケチなやつめ!そんな事してる間にも早く行けよ!」

 

と、三五郎は、年下の正太郎に叱られながらも、

 

「おっときたさの次郎左衛門!」

 

 パッと駆け出した。その姿を見送った女の子達が

 

韋駄天(いだてん)とはこの事なのかしらねえ?あれあれ、あの飛び方がおかしいわ」

 

といって、笑うのも無理はない。

 

 三五郎は横太りで背が低く、頭の形も悪く短い首。顔の作りは、出たおでこ、獅子鼻、反っ歯の三五郎と、言うあだ名通り。色は黒いが、感心なのは、どこまでもひょうきんで愛嬌のある目つき、両方の頬のえくぼ、目隠ししてやった福笑いの様に見える眉毛のつき方も、それはおかしいが、罪の無い子である。

 

 貧しいからなのか、祭りの日にしては質素な服装で、

 

「俺は、祭り用の揃いの浴衣が間に合わなかったんだ」

 

と、事情を知らない友人には言い訳をしている。

 自分を頭に六人の子供を養う父親は人力車夫で、それなりにお得意さんはいるけれども、やはり貧しい暮らし。

 

 三五郎も十三歳になれば片腕になるだろうと、一昨年から活版印刷所へも務めたのだが、怠け者なので十日も辛抱が続かなかった。

 ひと月と同じ職もなくて、霜月より春までは、突羽根の内職を、夏は検査場と呼ばれる、遊女達の健康診断所の氷屋の手伝いをして、面白い呼び声で客を引くのが上手いので、重宝がられた。

 

 去年は、仁和賀の時に屋台引きに出たので、友達がいやしがって、「貧しい万年町」と言うあだ名が今も残っているのだけれど……この辺りでは三五郎といえば、おどけ者ひょうきん者で有名で、憎む者がいない事は一つの美徳である。

 

 金貸しの田中屋は、三五郎の一家にとって命の綱のであり、一家が被る恩恵は少なくない。日歩(ひぶ)といって、金利は安く無い借金だけれども、これがなくては、暮らしていけない。

 だから正太に

 

「三公、俺の表町へ遊びに来い!」

 

と、呼ばれれば、嫌とは言えない義理がある。

 けれども本来は横町に生まれ育った身であり、住んでいる地所は龍華時のもので、家主は長吉の親なので、表立って横町組に背くことはできない。今夜の様に事情があって、表町組の用事をして、横町組に睨まれる時の役回りは辛い。

 

 正太が、筆やの店へ腰をかけて、美登利を待つ間の暇つぶしに、忍ぶ恋路の歌を小声で歌っていると、

 

「あれまあ、おませさんですね」

 

筆やのおかみさんに笑われたので、正太郎は何となく耳の根っこを赤くし、誤魔化す様に声高に

 

「皆んなも来いよ!」

 

と、呼んで表へ駆け出した出会い頭に、正太郎の祖母がやって来た。

 

「正太は夕飯をなぜ食べないのか?遊びほうけて、さっきから呼んでいるのも知らないのか?どなた様も、また、のちほど遊んでやってくださいね。これはいつもお世話様です」

 

と、筆やの妻にも挨拶しての、祖母の自らのお迎えに、正太も嫌とは言えない。

 そのまま連れて帰られてしまったので、その後、急にその場が寂しくなった。

 人数は、そう変わらないのに、あの正太郎がいないと、大人達までもが寂しい様子。

 

「正太郎は他の少年たちの様に、バカ騒ぎもしないし、冗談も三ちゃんの様に滑稽ではないけれど、人々から好かれるのは、金持ちの息子さんにしては珍しく、愛嬌があるからだろう」

 

「それに比べて、何と、ご覧になったか、田中屋のお祖母さんのいやらしさを。あれで歳は六十四歳。

 白粉をつけないでいるのは、まだましだけど、丸髷(まるまげ)の大きさ、猫なで声を出して、人が死ぬのも構わない様子。おおかた死ぬ時は、金と心中なさるのではないか?」

 

「それでも自分達の頭が上がらないのは、あのお方のお金と商売のご威光は、そうは言っても欲しいもの。遊郭内の大きな遊女屋にも、たくさんの貸付があるらしいと聞きましたよ」

 

 などと、大通りで立ち話をしていた二、三人の女房たちが、田中屋や吉原遊郭の財産について、噂話をしたのだった。

 

 

参考文献はこちらです。

たけくらべ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)

たけくらべ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)

  • 発売日: 2004/12/11
  • メディア: 文庫
 

 

 

そんな訳で、この章の心のBGMは、やはりこちらの曲でした。 


夏祭り - Whiteberry(フル)

 

お付き合い、ありがとうございます。

  

樋口一葉「たけくらべ」を、ある飲み物に例えてみました🥤

こんにちは!

長文続きで失礼します。

 

今回は、なぜ私が

たけくらべ」現代語訳を始めたか、理由を書きます。

 

原文を読み解くのに大変苦労し、

原文の素晴らしさ、ストーリーの素晴らしさ

を知ってしまった私。

 

素晴らしい!! でも 原文では読み辛い!!

 

私は最近、個人的に、こう感じています。

 

たけくらべ」の原文 は 

「カルピス」の原液

 

の様なものではないかと💦

 

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そんな訳で、カルピスの原液を、適量の水を加えて飲みやすくして飲む様に、

たけくらべ」にも、適量の言葉(?)を加えて、現代の皆様に飲んで・・もとい

読んで頂けたら・・

そんな気持ちで、記事を書いています。

 

今回、新たに、挿絵 や 音楽 を 加えた理由は、

 

水割りだけでなく、

ソーダ割り 

多種のフレーバー

の様な楽しみも、加えられたらいいなと思ったからです。

 


長澤まさみさん CM集 カルピス篇

 

長澤まさみさん、可愛らしいですね!美しい!大好きな女優さんです!!

個人的には、幼稚園先生編の

「先生カルピス作って」→「そこからじゃなくって」

編が、大大好きです✨

 

脱線記事、失礼しました。

お付き合いありがとうございました。

 

樋口一葉『たけくらべ』  「可愛い」美登利が「愛おしい!」第三章を…どうにか解説💦  〜 私なりの現代語訳(再推敲) 〜 

こんにちは!

 

樋口一葉 『たけくらべ』 の 第三章 の解説です。

ようやく、ヒロイン美登利が登場です!!

 

無邪気で明るい、でも繊細な面もあった

現・少年少女 元・少年少女 の皆様

 

に、捧げたい!!

そんな、第三章です。

 

 suiさんの「可愛い君が愛おしい!」という曲の様に、

美登利の魅力を説明できたらとm(_ _)m

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たけくらべ  第三章  (夏祭りの前 表町組)

 

 

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 解けば、足にも届きそうな髪は、根上りに固くひっつめて、前髪の大きな髷が重たげな、赭熊(しゃぐま)と言う結い方。名前は恐ろしげだが、この髪型が今の流行りで、良家のお嬢様もなさる事だといわれている。

 色白で鼻筋も通り、口元は小さくないけれどスッキリしていて形良く、一つ一つの作りは完璧ではないけれど、話す時の澄んで通った声や、人を見る目にとても愛嬌があって、生き生きした身のこなしが人を惹きつける。

 柿色に蝶鳥を染めた大柄の浴衣を着て、黒繻子と染め分け絞りの昼夜帯を胸高に締め、足には高い塗り木履を履き、朝湯の帰りに、白く美しい首筋に手ぬぐいをかけた立ち姿を、

 

「三年後の姿を見たい!」

 

と、遊郭帰りの若者が言ったものである。

 

 その少女は、大黒屋美登利という。紀州生まれで、まだ少し訛っている言葉もかえって可愛く、そもそも、こうした気前のいい気性を喜ばない人はいないだろう。

 彼女が持ち歩いている、子供には似合わない財布の重さには訳がある。

 実の姉が全盛の花魁なので、その恩恵があり、更には、やり手の新造、つまりは花魁の世話係の女性が、姉のご機嫌とりにも、妹である美登利に、

 

「美いちゃん人形をお買いなされ、これは手毬代にでも」

 

などと言って、ホイホイと小遣いをくれるのである。

 まだ世間知らず、無邪気な美登利は、恩を着せられる訳では無いので素直に受け取り、特にありがたいとも思わず、深く考えずに、散財するはするは……。

 

 同級生の女の子達に揃いのゴム毬を与えたり、表町組のたまり場である筆やの、棚に売れ残りになっていたオモチャを買い占めて、筆やと友達を喜ばせた事もある。

 

 こうした日々昼夜の散財が、本当なら、この歳この身分の娘に出来るはずはない。将来は一体何になる身なのだろうか?

 一緒に暮らしている両親も、そうした次女の振る舞いを大目に見て、厳しい言葉をかけるでも無く、大黒寮の主人が、この娘を大切がる様子も怪しい。

 

 よくよく話を聞けば、美登利は大黒屋主人の養女でも親戚では、もとより無い。

 美登利の実の姉が身売りした時に、鑑定に来た遊郭楼の主人に誘われるままに、この土地、吉原で暮らしたいと思い立ち、両親と美登利の三人、旅姿でやってきたと言う訳らしい。

 

 それ以上に立ち入ればどういう内状かというと、今は寮の番をしながら、母は遊女の仕立物、父は小格子の書記になっている。

 

 美登利は、遊芸手芸学校にも通わされているが、その他は気ままに、半日は姉の部屋、半日は町で遊び、見聞きするのは三味線に太鼓、朱色や紫の派手な色ものの着物という毎日である。

 

 紀州から越してきたばかりの頃は、地味な着物で歩いていると、田舎者、田舎者と、町内の娘達に笑われたものだった。それを悔しがって、三日三晩泣き続けた事もあったが、今では、美登利の方が人々を嘲り、野暮な姿をけなす様な事を言っても、言い返す者がいなくなった。

 

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 八月二十日は、お祭りだから、思いっきり面白い事をして欲しいと、友達にせがまれた美登利。

 

「趣向は何なりと、皆それぞれに工夫して、大勢で楽しめる事が良いでしょう。幾らでも良いよ、お金は私が出すから!」

といって、いつもの通り気前よく引き受ける美登利。

 そうした子供仲間内の女王様からの、ありがたいお恵みは、子供達には、大人よりも利き目が早く、みんなを喜ばせた。

 

茶番にしよう。どこかの店を借りて、往来からも見えるようにして……」

 

と、一人が言ったら、

 

「馬鹿を言え、それよりは、お神輿をこしらえておくれよ。蒲田屋の奥に飾ってある様な、本物のやつを。重くても構わないさ。やっちょいやっちょい、訳ないさ」

 

と、ねじり鉢巻をする男の子の側から、

 

「それでは私たちがつまらない。みんなが騒ぐのを見るばかりでは、美登利さんだって面白くないでしょ?あんた達は何でも、勝手に好きな様にしなさいよ!」

 

と、女子の一群は、祭りよりも、何なら常盤座のお芝居をと、言いたげな様子なのがおかしい。

 

 田中の正太は、可愛らしい眼をぐるぐると動かして、

 

幻燈にしないか?幻燈に。

 俺のところにも少しはあるし、足りないのを美登利さんに買って貰って、筆やの店でやらせてもらおうよ。俺が映し役で、横町の三五郎に口上を言わせよう。美登利さん、それにしないか?」

 

と言うと、

 

「ああ、それは面白いだろうね。三ちゃんの口上ならば誰も笑わずにはいられないよ。ついでに、あの面白い顔が映ると、なお面白いだろう」

 

 その様に相談が整って、正太が不足の品の買い物役になり、汗だくで飛び回るのも面白い。

 祭りがいよいよ明日となるころには、横町にまでも、その噂は聞こえたのであった。

 

 参考文献は、こちらです。

たけくらべ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)

たけくらべ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)

  • 発売日: 2004/12/11
  • メディア: 文庫
 

 

 

 今日の、心のBGMは、こちらのキュートな曲でした。

<a href="https://utaten.com/lyric/nk20082402">可愛い君が愛おしい! 歌詞</a> 

 

最近、少しずつですが、2010年以降の歌も、聴くようにしています。

素敵な歌、たくさんありますね!

 

雨が心配ですが、みなさま、ご自愛ください。

 

ありがとうございます。 

 

樋口一葉『たけくらべ』  第二章を「クール」に解説したい!💪   〜 私なりの現代語訳(再推敲) 〜 

こんにちは!

たけくらべ」第二章の翻訳、解説です。

この章は特に、十代少年二人のやり取り、会話が面白い章です。

二人の想い、会話を色分けしてみました。私なりの解釈です。

 

長吉 信如 です。

 

この章は、特に

 

昔、やんちゃだった大人の皆様、

思春期のお子さんの教育でお悩みの皆様、

 

読んで頂けると、大変嬉しいです✨

 

「ウエストサイド物語」の「クール」のシーンの様に、できるだけ

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クールに!! 

 

いってみます! 頑張ります!

 

 

 たけくらべ 第二章  (夏祭りの前 横町組)

 

 

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万燈(まんどう)のつもりですm(_ _)m

 

 

 八月二十日は千束神社の祭りである。山車屋台に町の人々が、それぞれに見栄を張り合っている。山車を担ぐ若者達は、勢いよく土手を登って、遊郭内にまで入り込みそうな勢い。

 

 ここらに住む若者達の威勢の良さが窺われるはず。彼らは余計な話を、耳で聞きかじるばかり。

 浮世慣れしている日常のせいで、子供といっても油断がならない。服装も態度も、生意気のありったけ。それを直接、見聞きすれば、驚いて肝も潰れそうである。

 

 長吉、横町組と自称する乱暴者達の大将。鳶職の頭の長男坊で、歳も十六才。仁和賀(にわか)と言う行事の、金棒と呼ばれる大役を、父親の代理として勤めて以来、益々気位が高くなっている。

 そんな訳で帯は腰の先に巻き、返事は鼻の先でするものと決めていて、全く可愛げのない様子。

 

「あの子が頭の子でなければねえ……」

 

と、鳶職の女房達に陰口を言うものもあるほどの、やりたい放題、わがまま放題。身には合わない幅を利かせている。

 

 長吉には表町田中屋の正太郎と言って、歳は長吉よりも三つ下だが、家に金もあり愛嬌もある人気者の、気にくわないライバルがいる。

 

 

 俺は私立の学校に通っているのだが、あちら(正太郎)は公立だからといって、同じ様に歌っている唱歌も、あちらの方が本家だという様な顔をしやがるし、去年も一昨年も、あちらには大人の取り巻きもついていて、祭りの趣向も自分たちより華やかだったし、喧嘩も仕掛けられない防衛算段もしていやがったので、悔しい思いをした。

 今年の祭りでも負けになったら、

 

「俺様が誰だと思う!横町の長吉だぞ!」

 

などと、いつもの威張り方じゃあ、空いばりだと貶されてしまう。

 弁天ぼりに泳ぎに行く時にも、俺の横町組になる人数は、多くならないだろう。それじゃあ、この長吉の面目は丸つぶれだ!

 

 俺の方が腕力では負けないが、田中屋の正太郎の柔和ぶりにごまかされている奴が多い。

 もう一つは、あいつが学問が出来るのを恐れて、住まいは俺たち横町組のはずの太郎吉、三五郎などが、影ではあちら方(表町組)になっているのも口惜しい。

 

 祭りは、もう明後日だ!いよいよ俺たち横町組が負けそうだと見えたら、破れかぶれに暴れて暴れて、正太郎の面に傷の一つもつけてやる!

 俺自身の怪我も覚悟の上なら、大した事じゃない。加勢する奴らは、車屋の丑(うし)に元結よりの文(ぶん)、おもちゃ屋の弥助などがいれば引けは取らないだろう。

 ああ、それよりも、あの人あの人、藤本ならば良い知恵も貸してくれるだろう。

 

 

 そう思って、長吉は十八日の日暮れ近く、物を言えば目口にうるさい蚊を払いながら、竹の生い茂った蓮華寺の庭先から、信如の部屋へのそりのそりと、

「信さんいるか?」

と、顔を出したのだった。

 

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「俺のする事は乱暴だと人が言う。乱暴かもしれないが、悔しい事は悔しいや。なあ、聞いとくれ信さん!

 

 去年も、俺んところの末の弟のやつと、正太郎組のチビ野郎の万燈(まんどう)の叩き合いから始まって、そしたら正太郎の仲間がバラバラと飛び出してきやがって。どうだろう!小さな子の万燈をぶち壊しちまって、しまいには胴上げまでしやがって。

 

『見やがれ横町のザマを!』

 

なんて一人が言うと、間抜けなのに背ばかり高い、大人のようなツラをしている団子屋のトンマのやつめ。

 

『こいつらなんて、カシラであるものか、シッポだシッポだ。豚のシッポだ。』

 

なんて悪口を言ったとさ!

 俺はその時、千束様へ練り込んでいた時だったから、後で聞いた時、直ぐに仕返しに行こうと言ったさ!

 でも、父っつあんに頭から小言を食らって、その時も結局、泣き寝入りさ。

 

 一昨年はそらね、お前も知っている通り、筆やの店へ表町の若い衆が集まって、茶番か何かやったろう。あの時、俺が見にいったら、

 

『横町には、横町の趣向がありましょう』

 

なんて、腹の立つ事を言いやがって、正太郎ばかりを客にしたのも忘れやしない。

 

 いくら金があるからって、所詮、質屋くずれの高利貸の癖に、何様のつもりだ!

 あんな奴を生かしておくより、やっつけてしまう方が世間のためだ。おいらは、今度の祭りには、どうしても、こちらから乱暴をしかけて、雪辱しようと思うよ!

 

 だから信さん、俺を友達だと思って、お前が嫌だと言うのもわかっているけれど、どうぞ俺の味方になってくれないか? 

 横町組の恥をすすぐのだから、なあ、おい、本家本元の唱歌だなんて威張っている正太郎を、取っちめてくれないか?

 

 俺が『私立の寝ぼけ生徒』と言われれば、同じ私立のお前がそう言われたのも同然だから、後生だ、どうぞ、助けると思って、大万燈を振り回しておくれ。

 俺は心底、口惜しくって!今度負けたら、この長吉の立場はないよ!」

 

と、本気で悔しがって幅の広い肩を揺すっている。

 

「だって僕は弱いもの」

「弱くてもいいよ」

「万燈は振り回せないよ」

「振り回さなくてもいいよ」

「僕が入ると負けるけど、いいのかい?」

 

「負けてもいいのさ、それは仕方がないと諦めるから。おまえは何もしないでいいから、ただ横町の組だという事で、威張ってさえくれれば、名前を貸してくれれば、ハクがつくからね。

 俺はこんな分からず屋だけど、お前は学問ができるからね。正太郎のヤツが、漢語か何かで冷やかしでも言ったら、お前も漢語で仕返しておくれ。

 ああ、いい気持ちだ、さっぱりした。お前が承知してくれれば、もう千人力だ。信さんありがとう!」

 

などと、珍しく優しい言葉で言ったのだった。

 

 長吉は三尺帯につっかけ草履の仕事師の息子、一方の信如は、坊さま仕立ての寺の息子。

 思う事はうらはらで、話はいつも喰い違うのだけれど、信如にとって長吉は、自分たちの門前に産声をあげた子供だからと、両親である大和尚夫婦も贔屓している幼馴染の少年である。

 それに同じ学校なのに、公立の連中に私立だからと貶されるのは、たしかに信如も不愉快である。

 

 そして長吉は、腕っ節は自分と違いあるが、元来、愛嬌がないので、心から味方につく者もあまりいないだろう。

 確かに正太郎の側は、町内の若衆達まで味方につけているから、ひがみではなく長吉が負ける事の罪は、正太郎達の方に少なくない。自分を見込んで頼んでくれた事への義理としても、嫌とは言いかねた信如。

 

「それではおまえの組になるさ、なるといったら嘘はないが、なるべく喧嘩はせぬ方が勝ちだよ。いよいよ先方が喧嘩を売りに出たら仕方が無い。何、いざと言えば、田中の正太郎くらい小指の先さ!」

 

 などと、自分の力の無い事を忘れて、信如は机の引出しから、京都みやげに貰った小鍛治の小刀を取り出し、それを見た。

 

「よく利れそうだねえ」

 

と、それを覗き込む長吉の顔。

 あぶない、これを振廻してなる事か!振り回させてなる事か!

 

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この章の、私の心のBGMはこちらの曲でした。 


ウエストサイド物語~クール(Cool)

 

 

たけくらべ」を読んでいると、特にこの章などを読んでいると、

 

ロミオとジュリエット

ロミオとジュリエット (字幕版)

「ウエストサイド物語」

ウエスト・サイド物語(字幕版)

アウトサイダー

アウトサイダー [DVD]

 

などなどの映画が、頭をよぎりました。

 

狭い地域社会の中の、若者達の小競り合いと言うのは、古今東西

よくある事なのだろうか?

 

と、改めて思いました。

 

参考文献は、こちらです。

たけくらべ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)

たけくらべ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)

  • 発売日: 2004/12/11
  • メディア: 文庫
 

 

お付き合い、ありがとうございます。

樋口一葉『たけくらべ』  むずいけど「鮮やかな」第一章を「ふらふら」と解説💦  〜 私なりの現代語訳(再推敲) 〜 

 

こんにちは!

スポーツの秋、芸術の秋、読書の秋ですね。

読書の秋という事で、改めて、こちらの記事を再アップ致します。

以前書いた文章を、更に推敲して、改めて記事にしました。

 

以前は、下記記事の様な解釈をしていたのですが。

 改めて掘り下げた書評を書こうと思ったからです。

obachantoarts.hatenablog.jp

obachantoarts.hatenablog.jp

 

今回は、アナログな挿絵も描いてみました。

少しでもイメージの足しになれば嬉しいです💦

 

  

それでは、米津玄師さんの「フラミンゴ」の様に、

「鮮やかな」第一章を、私なりの現代語訳で「ふらふら」と、失礼しますm(_ _)m

 

 

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 たけくらべ    第一章  (吉原に住む人々)

 

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 実際に吉原近辺を歩いてみると、廓内から大門前にあるみかえり柳※注釈1)までの距離は、本当は長いのだけれど……。

 その柳の辺りからでもお歯黒どぶ※注釈2)に、その灯りが映る廓の三階の騒ぎも、手に取るように聞こえてくる。そして、朝夕関係なしの車の往来に、計り知れない全盛が感じられて「大音寺前」と、場所の名前は仏臭いけれども

 

「それはそれは、陽気な町だよ」

と、住んでいる人々は言っている。

 

 しかし三島神社の角を曲がった先には、これと言った家、建物もなく、傾いている軒端の十軒長屋、二十軒長屋ばかりである。商売は全く成功しない所だという事で、半分ほど閉まった雨戸の外に、怪しげな形に紙を切り抜いておしろい粉を塗りたくった物を貼っているのは、派手な色の田楽豆腐を見る様で、その紙の裏に貼っている串の様も、滑稽に見える。

 そうした家が一軒、二軒ばかりではなく、その紙飾りを朝日の頃から外に干して夕日の頃に屋内にしまい込むやり方、労力も大げさで、家族総出で、この作業に熱心な様子である。

 

「それはいったい何なのですか?」

と、尋ねてみると、

 

「知らないのか?これこそが十一月の酉の市に、例の大鳥神社で、欲の深い方々が、競って買って担ぐ、縁起物の熊手づくりの下ごしらえだよ」

という話である。

 

 この熊手作りの作業は、正月の門松を取り払う頃から始められて、ほぼ一年がかりで取り組むのが、本当の商売人と言えるもの。

 たとえ本業の合間の片手間の仕事でも、夏の頃から手も足も絵の具で汚してまで取り組んで、

「正月の晴れ着の支度にも、この熊手の売り上げを当てるのだからね。なむやありがたや。大鳥大明神様!買う人にさえ大きな福を与えなさるのなら、製造元の自分たちには、一万倍の利益を与えてくれるだろうよ!」

と、こうした職人たちは、口をそろえる様だけれど、実際は、そうは思い通りにならないもの。

 この辺りに大金持ちになった者の噂も、とんと聞かれた試しがない。

 

 

注釈1

なごりを惜しむ客になぞられて、そう呼ばれていた柳

注釈2

吉原にあった、黒く濁ったどぶ

 

 

 ここ吉原に住む人の多くは、廓(くるわ)に関わる仕事の人々である。

 例えば夫は小格子※注釈3)の何やらという仕事の、ある家での事。下足札(※注釈4)を揃えた、「ガランガラン」という音も忙しそうな夕暮れ時に、夫が羽織を引っ掛けて仕事に出かけて行く時、後ろで夫の背中に、安全祈願の切り火をうちかける女房の顔も、

 

「これが夫の姿の見納めだろうか?十人斬りの巻き添え、無理心中のし損ねやら、恨みがかかりやすい立場で、危険なのではないか?」

と、不安そうなのだが

 

「さあ行ってくるぜ!」

という時の夫の様子は、命がけの仕事のはずにしては、まるで遊びに出かける様に見えるのも、なんだかおかしい。

 

 

注釈3

吉原の比較的小さい遊女屋

注釈4

履物を預かった時に渡す木札

 

 

 ある家の娘は、大間鍵と呼ばれる最も格式の高い遊郭の下働きだとか。または、遊郭で客を鼓楼に案内する茶屋の、吉原では一番格式が高い引き手茶屋の、茶屋から大店への送迎、案内などの下働きだとかで、かんばんを下げながらの、チョコチョコ走りの修行中。そうした仕事を卒業して何になるのかといえば、

 

「とにかく桧舞台の花魁になれるのだろう」

と、判断するのは、おかしくはないだろうか?

 

 あか抜けた三十歳くらいの年増の女が、こざっぱりして、しゃれた唐桟揃いの着物に紺色の足袋を履いて、雪駄(せった)をチャラチャラと忙しげに、小包を小脇に抱えているのは、わざわざ聞かなくてもそうとわかる。茶店お茶屋の桟橋を、雪駄でトントンと鳴らして、

 

「まわり遠いし、こちらからの方が近くて楽だから、ここから失礼して渡しますよ」

そんな様子から、注文の品を届ける仕事屋さんだと、この辺りでは言うのだ。

 

 この辺一体の風習は、他の地域のものとは変わっていて、女の子たちで、着物の帯がきちんと後ろ帯にしている子が少なく、みんな派手なガラを好み、幅の広い巻き帯である。

 年増の女性は、まだいい方だ。十五、六歳の生意気盛りの女子が、ホオズキを含んで遊んでいる。

 

「全くそのなりは嘆かわしい、恥ずかしい」

と、目を塞ぐ人もあるはずだが、こういう場所柄なので、仕方もない。

 

 昨日、ある河岸の店に「なんとか紫」と言う源氏名が耳に残っていた女が、今日は「地まわりの吉」という男と、手慣れない焼き鳥の夜店を出している。

 そうした女も、それまでの貯金を使い果たしてしまえば、再び古巣である河岸の店へ戻る事になりかねない。その様なおかみさん姿は、それでも、どことなく素人よりは、見栄えが良く見える。

 そんな訳で、こうした女性達の様子に染まらない子供もいない。

 

 秋は九月の仁和賀※注釈5)の頃の大通りの子供達を見てみなさい。見よう見まねで、それは良くも学んだものだ。太鼓持ち幇間や、露八のモノマネ、栄喜の身のこなし、孟子の母親だって驚きそうな、上達の速さだ。

 

「うまいねえ」

と、褒められたので、

 

「それじゃあ、今晩も一回りしよう」

と、七つ八つの小さい子供からも集めて、すぐさまに、肩には手ぬぐいを置いて、みんなで、遊郭の冷やかし客が歌う「そそり節」を鼻歌で歌う始末。

 

 十五歳の少年のませ方も恐ろしい。学校の唱歌にも

「ぎっちょんちょん……」

などと、拍子を取るわ、運動会には、木やり音頭※注釈6

)も、歌い出しかねない様子。

 

 そうでなくても、教育というものは難しいのに、この学校の教師の苦労は、どれほどだろうか?と思われる「育英舎」という学校が、入谷の近くにある。

 私立だけれども、生徒の数は千人近くあり、狭い校舎が子供達でぎっしりの窮屈さ。なので教師への人望が、益々あらわれて、ただ「学校」と、一口で言えば、この辺りではこの学校の事だと分かるほどである。

 

 この学校に通う子どもの中には、ある子供は「火消し鳶人足」の息子や、

「おとっつあんは、はね橋※注釈7)の番屋に勤めているよ」

と、教えられなくても知っている、賢い子もいる。

 

 梯子乗りのモノマネをしていて

「あれ、忍び返しを折りました」

などと、訴えたりのあれこれ。

 弁護士の子供もあるようだ。

 

「お前の父さんは、※注釈8)だねえ。」と言われて、その事を名乗るのが辛くて、子供心にも顔を赤らめる、控えめな様子の子供もいる。

 

 金持ちの父親が出入りする遊郭で生まれた、寮住まいの秘蔵の息子が、華族様の様に、ふさ付き帽子に表情豊かで、洋服を当たり前のように華やかに着ており、周りの人々が

「坊ちゃん、坊ちゃん」と言って、その子におべっかを使うのもなんだか滑稽に思える。

 

 そんな多くの生徒の中に、龍華寺の信如という少年がいる。

 千筋もありそうな黒髪も、あと何年の命だろうか?それというのもやがては、墨染に変えなければならない袖の色の身の上なのである。

 

 自発的な気持ちからのものかどうか分からないが。父親が寺の和尚で、勉強家の少年なのだ。最初のうちは生来大人しい性格なのを、友人達に厭わしく思われて、様々なイタズラを仕掛けられていた。猫の死骸を縄にくくりつけたのを

 

「お役目なのだから、引導を頼みます」

などと、投げつけられた事もあったが……

 

 それはもう昔の事。今は校内一の、できる人物と思われていて、決して侮られてのイタズラはされなくなった。

 歳は十五歳。並みの身長で、イガグリ頭も心なしか、周りの人たちとは違っていて「藤本信如(のぶゆき)」と、訓読みにしているけれど、どこやら釈迦の弟子とでも言いたげなそぶりである。

 

 

注釈5

にわか、茶番狂言

注釈6

本来は材木運びの音頭だが、吉原では、この風俗を模して祭礼のとき、手古舞姿の芸妓が歌う歌の事。

注釈7

お歯黒どぶにかかる橋。遊女の逃亡防止のために普段は上げてある。 

注釈8

お金が足りなくなった客の自宅などに行き、残金を取り立てる役。

 

 

参考文献はこちらです。

たけくらべ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)

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個人的には、やはり・・と申しますか、この章の心のBGMは、こちらの曲でしたm(_ _)m

www.uta-net.com

 

お付き合い、ありがとうございます。

 

だいぶ涼しくなってきましたが、皆様ご自愛下さい。 

映画「愛を読むひと」について  〜 📖ケイト・ウィンスレットさんの魅力と女優魂📼 〜

先日、こちらの映画を観ました。

 

愛を読むひと<完全無修正版> [DVD]

 

私はこの映画を、全く予備知識なしで観ました。

この映画の説明をする事は、非常に難しいのですが、

ブログで、この映画の存在を、ぜひ紹介したいと思いました。

 

 


愛を読むひと

 

人間誰しも、何らかの魅力を持って産まれて来るものではないかと、私は思います。

しかし人間は、生い立ち、成長してからも、環境の影響を受けて生きていかなければなりません。少なからず。

 

1960年頃(うろ覚えですみません)のベルリン。

マイケルは裕福な家庭の息子で優秀な15才の学生。ある日彼は、街中で体調を崩します。

人目のつかないところに座り込んで困っていた彼を見つけ、家の前まで送ってくれたのは、独身中年女性のハンナでした。

 

回復後、お礼のために彼女の部屋を訪れたマイケル。

それをきっかけに二人は深い仲に。

 

そして、ある日のやり取りをきっかけに、ハンナはマイケルに、こう要求する様に。

「先に本を読んで。セックスはその後よ」(うろ覚えですm(_ _)m)

二人で過ごす時間は、お互いにとって何よりも大切な時間になっていきます。

 

しかしハンナは、或る日突然、理由も告げずに部屋を引き払ってしまい、音信不通に。

マイケルは、ただ一人ひっそりと、その喪失感に悲しみます。

 

数年後、法学部の学生になったマイケルは、授業の一環として、ある裁判を傍聴する事に。

それは大戦中にユダヤ人収容所の看守をしていた6人の女性達が、多くのユダヤ人を見殺しにした罪で告発されている裁判でした。

マイケルは、被告人の一人として被告席にすわるハンナを見る事になるのでした。

 

マイケルと過ごした日々に、なぜ彼女は本を読む事を彼に要求したのか。

なぜ突然、仕事もやめ、引っ越したのか。

裁判で、なぜ彼女は自分に不利な証言をしたのか。

 

それは彼女にとって、絶対に人に知られたくない一つの秘密を隠し通すためでした。

結果、彼女は無期懲役に。

 

裁判を通して、ただ一人その秘密に気づいたマイケル。彼も人知れず苦しみます。

 

更に数年後、弁護士になっていたマイケル。

彼は離婚後、久しぶりに実家を訪れます。

自分の部屋で、かつてハンナに読み聞かせた本を見つけた彼は・・

 

愛を読むひと(字幕版)

愛を読むひと(字幕版)

  • 発売日: 2018/01/12
  • メディア: Prime Video
 

 

この映画のタイトルが

 

原題 「The Reader(朗読者)」

邦題 「愛を読むひと

 

である理由を、少しでも多くの人に、映画を鑑賞する事で知ってほしいと思いました。

私自身は、原作も読んでみたいと思います。

 

お付き合い、ありがとうございます。

 

浅田真央ちゃん 💐 お誕生日おめでとうございます 💐

こんにちは!

 

今日は、敬愛する 浅田真央ちゃん の お誕生日です ✨

 

悩んだ挙句、アナログですが、バラの絵を描きました。

 

真央ちゃん、お誕生日おめでとうございます 🍀  

 

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何色でもお似合いな、何色のお洋服でも美しく着こなす真央ちゃんです😊

それでもやはり、淡いピンクと薄紫色がよく似合う、浅田真央ちゃんだと思い、

描きました。

 

真央ちゃん、良いお誕生日を 🎂

 

 

 

アニメ・少女漫画「ぼくの地球を守って」について  〜 🌕繋がる過去と未来 輪廻🌎 〜

こんにちは!

今日は、漫画ぼくの地球を守ってについて、

少し紹介します。

 

前記事と同様、2020年という今年だからこそ、深く考えさせられる名作です。

80年代半ばから、90年代半ばに連載されていた漫画です。

私は観たことがなかったのですが、90年代にアニメ化もされていたようです。

 

「文明の発展」「戦争」「格差社会」「人間関係」「恋愛」

そして

「新型ウィルスの発生」

など、様々な問題が織り込まれている物語なのです。

 

「少女漫画」だと思うのですが、老若男女問わずに、お勧めしたい作品です。

 

私は先日、Amazon primeで見かけ、アニメを鑑賞し、悩んだ末に、漫画も購読しました。

 

30年前は、私個人は途中で読むのを挫折してしまっており、結末を知らなかったのです。

 

漫画としての絵の描写も大変美しく「芸術」だと思います。

お話は、ちょっと複雑で、30年前の私には難しかったのですが、

最近、読破して・・・リアルタイムで読み切らなかったことを、深く後悔しました。

 

 

ぼくの地球を守って 3 (白泉社文庫)

 

漫画・アニメのみならず、音楽も素晴らしいです。

 

こちらは「槐(エンジュ)」という、一途な女性キャラクターのイメージ曲のようです。

片想いの切なさが伝わってくる名曲です。クラシックの「月光」とのコラボ(?)の部分もあります。

アニメではなく、漫画のサントラの一曲だったと思います。勘違いでしたら、すみません。


Moon Light Anthem ~槐1991~

 

こちらは、アニメ版のエンディング曲です。 歌詞も曲も美しいです。

【ぼくの地球を守って】時の記憶【FULL】 - ニコニコ動画

 

 

 こちらはアニメの第4話です。ご覧になる方は、ぜひ1話から、お勧めです💦

第4話 「想い」

第4話 「想い」

  • メディア: Prime Video
 

 

お付き合い、ありがとうございます。 

 

児童文学「モモ」について  〜 豊かな時間 豊かな想像力〜

こんにちは!

 

今日は、こちらの本の紹介を、したいと思います。

多忙社会、情報社会、効率重視が更に進み、今年はコロナの問題も抱えた世の中。

そんな状況の中だからこそ、お勧めしたい一冊です。

 

児童文学「モモ」(ミヒャエル・エンデ 作)のストーリーについて、非常に分かりやすく解説してくださっています。

著者は、河合俊雄先生(京都大学教授、臨床心理学者)です。

 

 

こちらのテキストを読み、改めて「モモ」という物語が

 

「人の話を聞く」ということの大事さ、難しさ

「人に話を聞いてもらえる」事の嬉しさ、大切さ

「時間」という「宝」の尊さ

「遊び」「想像力」「ファンタジー」の重要性

 

について気づかせてくれる、考えさせてくれる、素晴らしい物語である事を

思い出しました。

そして、改めて、メチャクチャ面白い物語だと思いました。

 

私は、中学3年生の時、こちらの原作を読みました。

モモ (岩波少年文庫)

モモ (岩波少年文庫)

 

 

ここ20年ほどは、読み返す事もなかったと思います。

 

先日、ふと、映画「モモ」を見ようと思い立った私。

1980年代後半の映画だったと思います。

 アマゾン・プライムと、DVDを探したのですが、見つかりませんでした。

モモ [DVD]

モモ [DVD]

  • 発売日: 2002/05/24
  • メディア: DVD
 

 

DVDは品切れだったのですが、検索で、上記のテキストの存在を知り、購読した次第です。

映画も、できれば、もう一度観たいです!!!

 


Angelo Branduardi - La canzone di Momo (Momo's Lied)

 

この曲が忘れらせません。カンツオーネだったんですね。とても優しく美しい曲です。

 

お付き合い、ありがとうございます。